第7話 ゲーセンなんて嫌いだ

 どこに行くのかも知らされないまま、俺はバスに乗せられた。


 その後バスに揺られること約20分。


 着いたのは大型のショッピングモールだった。


「なんでわざわざこんなとこまで連れてきたんだ?」

「なんでって、決まってるじゃん」


 俺がきくと、六実は微笑みながら答えた。


「普通、彼氏と彼女はデートをするでしょ?」


 俺は六実が当たり前のように言い放ったその答えに何も返せなかった。


 もちろん、こんな美少女の彼氏を俺なんかがやっているという感動もあっただろう。


 しかし、何も言えなかったのは六実に対する、胸のわだかまりがあったからなのかもしれない。


「どうしたの? 行こ?」


 しかし、彼女ははしゃぐ子供のような笑顔を見せながら俺の手を引いていく。


 彼女がなにを思っているのかなんてわからない。ただ単に俺のことを想ってくれているのかもしれない。


 だが、ティアが示した好感度と、どこか引っかかる彼女の笑顔に俺の疑問は消えることはなかった。



 * * *



「ゲームセンターだよね」

「ゲーセンだな」


 俺と六実は、店内に入った後、館内図を見て、まずどこに行くか話し合っていたわけだが、完全に両者異論なくゲーセンに行くことが即決した。


「ゲームセンターなんて久しぶりだなぁ。なんだかドキドキするね」


 俺はその笑顔にドキドキなんだがな……


 そんな風に、いざ店内に入ってみると、先ほどの疑問なんかも消え失せて、俺はただ楽しんでいた。


 久々に味わう、このショッピングモールならではの心地よい喧騒。


 それに加え、俺の彼女に向けられる羨望の眼差しや、俺に向けられる「なんでお前なんかが……」感のこもった視線。


 いいねぇ。いつもリア充ぶってるてめぇら、俺を崇めやがれ!


 そんなとりとめないことを考えているとすぐにゲーセンに着いた。


 少し暗めのそのゲームセンター内は、他の空間と異なる、喧騒、いや雑音に包まれていた。


 俺ほどのゲーセンマスターともなれば、この音だけでどんなゲームが入り、どのゲームが出て行ったのか把握することができる。


「へぇー、バトルストリートなくなっちゃったんだ……」

「え?音だけでわかるのか?」

「うん、ここには結構通ってたからね」


 くっそ、俺の固有スキルだと思ってたのにっ!


 俺が六実の意外な一面に驚いていると、俺の手を柔らかな六実の手が包んだ。


「離れないように、ね?」


 六実が少し恥ずかしげに言う。柔らかな感覚と少しの熱が手のひらを通して伝わってきて……


 今更だが、よく考えると女子と手繋いでるぞ俺。


 しかも超かわいいこの六実小春とだ。さらにあっちから積極的に。


 なんだかそう考えていると、急に手汗や、歩き方なんかが気になってきた。落ち着け俺。平常心平常心……



 俺の隣で、なにからしよっかな〜、なんて呟いていた六実の歩みが、唐突に止まった。


 その視線の先には、タイガーアンドドラゴンや、「夜露死苦」だのなんだの印刷されたジャケットを着た、ヤンキーどもがたむろしていた。


 どうやら、彼らによってここは占領されているようで、他の客は入っていない。


 スタッフも、少し遠くから様子を伺うばかりで注意すらする気配もない。


 ぱっ、と、手のひらに先ほどまで伝わったいた熱が、消え去った。


 君が行ったらダメだろ。


 ヤンキーどもに向かって歩き出そうとした六実の腕を俺は無意識に掴んだ。


 振り返る六実に向かって俺は微笑むと、代わりに俺がヤンキーどもに向かって歩き出した。


「おい、お前ら! いい加減に……」

「あぁ? なんか文句あんのかゴラァ?」


 顔を近づけて思いっきり睨んでくるヤンキーに、土下座して謝りたい衝動に駆られるが、俺はなんとか踏ん張った。


「も、文句なんかはねぇ」

「あぁ? じゃあなんだってんだ」

「勝負がしたい。これを見ろ」


 俺はそう言うと、震える手でバッグから財布を出し、またその中から札をごそっと出す。


「二十万ある。お前らが勝ったらこれをやる。代わりに俺が勝ったら出て行ってくれないか」


 俺がそう言うと、リーダー格と思われる一人はハッ、と嘲るかのように笑った。


「気に入った。じゃあ勝負の内容は俺らが決めさせてもらうぜ」


 黒い笑いを含んだその声は、ひどく高圧的で、俺の震えはひどくなった。


 どうかタイマンで勝負しろとか言われませんようにっ!


「折角ゲーセンにいるんだ。ゲームで勝負しなくてどうすんだ」


 ヤンキーがニッ、と笑い、金歯が露わになる。それとともに、後ろから少し笑う声が聞こえた気がした。


 震えは止まらないし、勝てる気もしない。でも俺は、笑うヤンキーに向かって笑い、こう言った。


「上等だ」

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