グリムノーツ~空白の刺客~

猫被 犬

第1話

 空白の書。運命の記述がない“運命の書”。役目を与えられていないがゆえに、この書の持ち主は自分の運命を自分で選択することができる。


何にでもなることが出来るというのなら、戦える者に俺はなりたい。

立ち向かえる力が欲しい。理不尽に消されてしまう者を守れる力が欲しい。

そのためになら、修羅にだってなってやる。






グリムノーツ~空白の刺客~


 最近になって想区を問わず、不気味な噂が流れていた。

場所や時間を問わず、想区内の人が消えるのだ。 消えるといっても失踪するという意味ではない。ある日突然に、目の前で消しゴムで消されるかのように足元から消えていく。


消える寸前まで意識はあるらしく、ある者は恐怖の形相で、あるものは泣き叫びながら、ある者は呆然と消える直前まで何が起こったのか分からずに消えていく。


この現象が起こる前に必ず目撃される人物、その人物がこの現象を引き起こしているのではないかと言われていた。


長い白髪で白いドレスの様な服を着た女性。想区の人々はこの女性を消しゴムの意味を込めて『イレイサ』と呼んだ。


「ここが今イレイサがいるって言われている想区」


「そうよ……神出鬼没らしいから気をつけなくちゃ」


林の様な場所を歩いていたエクスとレイナは呟いた。噂を頼りに、イレイサの所在を突き止めにやってきたのだ。


「姉御、気をつけなきゃいけないのは自分の身の回りのこともです。スカートが樹の枝に引っかかってパンツが見えちゃってます」


「おっホントだ。お嬢って結構可愛いの履いてんだな」


後から付いてきていたシェインとタオが、スカートがひっかかり、パンツが見えてしまっていたレイナをからかう。

低い場所から生えていた木の枝に引っかかり、スカートの後ろの方がめくれ上がり、パンツが見えしまっていたのだ。


「きゃあ! 早く言ってよシェイン! 今見たものは忘れなさいタオ!」


ぎゃあぎゃあと騒ぎ緊張感がなくなったその場を一歩引いた所で伺いながら、

「可愛いの履いてるんだ……」


エクスが一言そう呟いた。


そんなやり取りをしていると、林の木々から鳥達が飛び去り、虫達が逃げるようにこの場からどこかへ移動していくのを目にした。


そしてエクス達の前に姿を現したのはヴィラン。


「そんなっ! この想区にはカオステラーはいないはずじゃ!」


エクスが叫ぶ。事前に知らされていた情報ではこの想区にヴィランはいないとのことだった。


調律の巫女であるレイナもそう言っていた。


「考えるのは後ね。今は戦わなくっちゃ」


さっきまでとは売ってかわって真剣になるレイナとメンバー。


カオステラーもいないはずの想区でヴィランが発生した原因は解らないが、まず目の前に迫る脅威に立ち向かわなければならない。


エクス達は導きの栞を空白の書に挟んだ。


 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 戦闘には問題なく勝利し、メンバーは駆け寄りお互いの無事を確認し合う。


「それにしてもどうしてカオステラーがいないはずの総区にヴィランが……」


そうエクスが声を出した時、木陰から不意に駆け寄ってきた女性がいた。

「え? あなた誰……」


全ての言葉を言い終わる前に、その女性はエクスに駆け寄り左頬に手を添え、右頬にキスをした。


「なっ」

レイナがソレを見て顔を真っ赤にして声を出す。


「エクスから離れなさいっ」


女性は掴みかかろうとするレイナをひらりと躱し、レイナの後ろに回りこんだかと思うと、レイナの太ももからおしりを撫で上げた。


「きゃあっ!」


その女性は次に、呆然とそのやり取りを見ていたシェインに向き直った。

女性は長い白髪に白いドレスのような服を身にまとっていた。

目撃された『イレイサ』の外見的特徴と一致する。


女性は今度はシェインに駆け寄ると、正面から抱きつきシェインの耳に優しく噛み付いた。


「あむっ」

「んっ!」

たまらず声をあげるシェイン。抵抗の意思を見せようと手で押しのけようとすると、タオが即座に反応し、その女性を攻撃しにかかった。


するとその攻撃を回避し、女性の拘束は簡単に外れた。


「んーやっぱりあなた達は消せそうにない」


小悪魔的な笑みを浮かべながらこちらを見る女性。今の言動を見る限り、この人物が『イレイサ』なのだろうか。


「テメーがイレイサか?」

タオが女性を睨みつけながら問いかける。


女性は笑みを浮かべたまま答える。


「巷ではそう呼ばれているみたいね。あらっ? あなたは」


イレイサが移動し、木の影に隠れたかと思うと姿がふっと消えた。


「タオ兄! 後ろです!」

シェインに声をかけられ後ろを向くと息がかかる位置にイレイサの顔があり、


「んむ」

タオは顔を両手で掴まれイレイサにキスをされた。


すぐに両手で押しのけそのキスを終わらせるタオ。


「てめぇ……何のつもりだ」

口元を拭いながらイレイサに問いかけるタオ。


「あなた……今は綺麗に消されてしまっているけど、過去に空白の書に何か書き込まれたことがあるわね?」


「なんのこと……」


言い終わる前に彼女の回りにヴィランが現れ始めた。


「てめぇがヴィランを……カオステラーにとりつかれてやがるのか?」


「そんなはずは無いわ。私が感じ取ることが出来ないもの」


レイナが口を挟んだ。確かにカオステラーが関わっているのであれば、レイナが反応するはずだ。


「んー厳密にいうとこの子達はヴィランとは少し違うんだけどね」

イレイサが口を開き、良くわからない事を言った。


そしてエクスがそのヴィラン達を見て、あることに気づいた。ヴィラン達のなかに一部分だけがある者がいるのだ。


ある者は片手だけ。ある者は片足だけというようにだ。

完全なヴィランに見える者もいる。


「私はカオステラーじゃないわ。でもね、消すことが出来るの」

イレイサが語り出す。自慢でもするかのような声音で。


「完全に消すんじゃなくて、少しだけ残すと、総区内の人間はどうなると思う?」

不気味な笑みを浮かべながら合図を送り、ヴィラン達をけしかけるイレイサ。


襲い来るヴィランに立ち向かうため、導きの書に栞を挟むエクス達。

その戦闘が終わる頃には、イレイサの姿はその場から消えていた。


「くそっどこ行きやがった!」

イレイサを逃がしてしまったことに対して悪態をつくタオ。


「熱くなりすぎてるわタオ。 ここでこうしていてもしょうがないわ。次の場所へ向かいましょう?」

タオを宥めて歩みを進めようとするレイナ。


「確かこの先に村があるはずです」

シェインが話に加わり次の目的地になりそうな村の話をする。


「ならまずはその村に行ってみよう。もしかするとイレイサもそこにいるかもしれない」

エクスの提案に一同全員賛成し、一番近くの村に向かうことにした。






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