【実話】初めてJKと握手したときの話する?
あなたの人生の中で、1回だけ1時間巻き戻せるとしたら一体いつに使うだろうか?
俺は断言できる。
今だ。なんなら2分だけでもいい。
27になるおっさんがセーラー服を着てランジェリーショップに来店し、たまたま目に入った赤のスケスケパンツを、バイト先の女子高生とタイミング悪く出合頭に手を出してしまったなんて、無かったことにしたい過去ナンバー1に輝くのは言うまでもない。
だがしかし、タイムリープ物でも特殊能力物でもないこのコメディ小説において、今起きた嘆かわしい事態を白紙にできる術など当然ありはしなかった。
俺にできるのは傷を広げないように最小限に抑えることだけだ。
目の前で今にも俺に罵詈雑言を投げかけようとしている女子高生に、俺が変態ではない事を丁寧かつ迅速に伝えることこそ、今俺が最優先してやるべき事柄なのだ。
頭に血を巡らせ最善の一手を考えると、やはりここにたどり着く。
俺はまずは謝罪から入るべきだ。
男子禁制のこの花園に踏み入った行動と、エリカさんを驚かせてしまった事。
誠意を持って謝罪すればこのように可憐な乙女が許してくれないわけがない。
「ご、ごめんエリカさん」
俺はそう言ってエリカさんに頭を下げた。彼女は俺の言葉を聞き、多少冷静になったのか口を開いた。
「えーと、よしお……さんですよね?」
「はい、よしおです」
「ごめんなさい驚いて。安心してください。誰にも言いませんから」
「いや、誤解です! 違うんですよ!?」
「恥ずかしがらなくてもじょそう? 願望持ってる人って結構いるみたいですよ?」
残念ながらエリカさんは全然冷静じゃなかった。
「違うんですよ! これ撮影のために買おうとしただけで……」
「あー、わかりますわかります。下着姿を撮る女子もいますしね」
駄目だ……
話し合っても絶対分かり合えない。
きっとエリカさんの中での俺は、女装好きの変態としてそのイメージをコンクリートでガッチガチに固められてしまっているのだと俺は確信した。
ふと目をやると店の外でカメラを構えるいずくの姿が目に入った。
そこで俺は気付く。そうだ、簡単なことじゃないか。
俺はいずくを指さしてエリカさんに視線を送らせた。
エリカさんは俺がYouTubeをやっている事を知っている。
きっと気づいてくれるはず。
だが、彼女の口から出てきた言葉は俺の期待を大いに裏切った。
「えっと、彼氏さんですか?」
なるほどなるほど。
いずくがサングラスをした危ない国家権力だとしたら、俺はカンボジアでマラソンをするお笑い芸人って感じか。
天然なのか想像力が豊かなのか今時の女子高生はまったくもって恐ろしい。
「よく見てエリカさん! カメラ持ってるでしょう?」
「カメラ……?」
それを見てエリカさんはやっと理解してくれたみたいだ。
安堵したのか引きつった顔に生気が戻ってくる。
「ああ! びっくりしたー。さすがにやりすぎですよ。よしおさん」
「それは外にいるやつに言ってくれ……」
「それで? その下着を買いに来たんですか?」
「いや、買えればなんでもいいんだ。それが動画の目的だから……」
俺はそこでひらめいた。
「エリカさん。ちょっと外で待っててくれないか?」
俺は不思議そうな顔をするエリカさんを外に出し、先ほどの赤のスケスケパンツをレジへと持って行った。
店員さんのひきつった顔をなるべく見ないようにし、紙袋に入れられたそれを受け取るとすぐさま店の外に逃げ出たのである。
*
俺が店から出るといずくが寄ってきた。
腹を抱えてゲラゲラ笑うその顔を俺は本気でぶん殴ってやろうかと考えたが、今は動画を完成させることが先だ。
「買ってきました!!」
俺はそう言って紙袋の中身を取り出しカメラにしっかりと写した。
「はいおっけい! お疲れ、幸」
いずくはそう言ってカメラを向けるのをやめた。
それを確認すると俺は向き直り、今度は近くで見ていたエリカさんに向かってパンツを差し出した。
「驚かせてごめん! これ買おうとしてただろ? 貰ってくれ」
俺の目的はパンツを買う映像を撮ることである。
それが済んでしまえばパンツにはもう用はない。
ならばせめて、迷惑をかけたエリカさんにこれをプレゼントしようと考えたのだ。
これは完全に俺の善意からくる行動であったが、エリカさんはなぜか受け取らなかった。
「うあ……ちょっ!! いらないですよ!! そんなの!!」
「遠慮しなくていいんだ! 貰ってくれ!!」
「やめてください!! 私こんなの履きませんよ!!」
そんなはずはないだろう。
だって店の中で、エリカさんの手は確実にこのパンツに伸びていたんだから。
「幸、これなんて羞恥プレイ?」
いずくにそう言われて俺は周りを見渡した。
行き交う人々は足を止め、セーラー服を着た俺が赤のスケスケパンツを本物の女子高生に手渡す様子をスマホに収めていた。
エリカさんはというと耳まで真っ赤に染め上げ、涙を目一杯溜め、顔はひきつっていた。
この状況はやばい。手渡すにしてもこのタイミングではなかった。俺がそう気づいた時にはもう現状は、良く言って最悪だった。
「はーーーい!! オッケーーー!!」
凍り付いた場で急に叫んだのはいずくだった。
「撮影終了!! 行こうよ2人とも」
いずくはそう言って俺たちに向けていた電源の入っていないビデオカメラをおろし、俺の肩とエリカさんの手を引いて、歩き出したのである。
*
「エリカさん! 本当にゴメン!!」
人気のない公園まで連れられた俺はエリカさんに深々と頭を下げる。
「幸があんなどSだったとは知らなかった」
いずくがそうぼそりと言ったので俺はいずくにも頭を下げた。
「いずく様! ありがとうございました!!」
いずくが俺たちを庇ってくれたのだと気づいたのは歩き出してからすぐだった。
面白がって周りにいた人々も、いずくの撮影終了というセリフを聞き、(なんだ撮影か)と興味をなくしたようだ。
意外と機転が利くじゃないか。
まあ最初からいずくが考えなければこんな事にはならなかったんだけど。
「プッ、ハッ! アハハハハハハ!!」
急にエリカさんがお腹を抱えて笑い出した。
「ど、どうした!? エリカさん」
「だって私、こんな恥ずかしいの初めてで……アハハハハッ!!」
「フッ、ハハ、ハッハッハッハッハ!!」
つられていずくまで笑い出した。俺もそうだ。笑いをこらえることができなかった。
恐らく人生で一番恥ずかしい思いをすると、人間というのは笑い出してしまうらしい。笑いすぎてお腹が痛かった。
3人は人目も気にせず公園内に笑い声を響かせていた。
「ところで幸、この子と知り合いなの?」
「ああ、同じバイト先のエリカさんだ。エリカさん、こいつは撮影を手伝ってくれてるいずくだ」
「エリカでいいですよ。全然年も離れてますし……」
エリカはいずくに手を差し伸べた。
「よろしくいずくさん。エリカって言います」
いずくはというと恐る恐るエリカの手を握り返していた。
「よっよろしくっおねがいしますっ!!」
童貞丸出しの言動だ。
俺のような男とデートして喜ぶやつである。生身の女性の手に触れて今や絶頂寸前だろう。
「今日の動画も投稿するんですか?」
「安心してください。僕が編集して、写った人の顔とお店にはモザイクかけますよ」
「いずく! おまえそんなことできるのか!?」
動画を作り始めて結構経つが、俺にできるのは動画を切り取ったり張り付けたりとその程度だった。
モザイクがかけれると聞いて俺はちょっといずくを尊敬した。
「そうなんですか。楽しみにしてますね」
エリカに微笑まれ、いずくは俄然やる気が出たようだ。その目に火がともったように見える。
「いいなあ、こんなに楽しいなら私もYouTubeやってみたくなっちゃった」
「でもバイト先で禁止なんじゃ……」
俺はオーナーからそうゆう類は禁止されている。当然同じ職場のエリカもだろう。
「でもうちのバイト、バレない様にやってる人もいるんですよ。そもそもオーナーYouTube見ないからバレようがないんですよね」
エリカの言葉を聞いて俺は少し安堵した。
そしてワクワクした。
まさかバイト先にまたユーチューバーがいたなんて。
「いずくさん、たぶん来週から一緒にシフト組まれますよ。夜勤の人だから」
「それは楽しみだ。あ、そう言えば……」
俺は手に持っていた紙袋をエリカに手渡した。
エリカは今度は苦笑いをしながらもそれを受け取ってくれた。
もしかしたら社交辞令的なものだったのかもしれないが、彼女がそれを履くかどうかは皆さんの想像に任せることにする。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます