クズが骨髄移植のドナーをやった話

吉村アリス

第1話「通知」

「全身麻酔や尿道カテーテル、やってみたいんですよネー」

「お前健康診断オールAやないか」

「健康でもやれる方法あるんですよコレが」

「?」

「骨☆髄☆移☆植☆ドナーだったら!」

「ハイハイ」


健康診断結果オールA、趣味は献血、吉村アリスです、コニチハ。連載にする予定のこの記事は、書く分にはリアルタイムで書くつもりですが、載せる分には身元がバレないよう細心の注意を払い載せるつもりです。


職場の飲み会で冒頭の会話をした、まさにその夜、骨髄バンクからのオレンジ封筒が届いていた。いつもの長3の薄い、寄付のお願いじゃなく、B5サイズで厚みがある。封筒には「重要」「親展」、これは、まさか…?


骨髄バンク。骨髄移植のために、健康な人が登録しとくヤツ。患者の主な病名は白血病。血液は人それぞれで違ってて、ABOで分けてるのは赤血球の型でして、骨髄移植に関係するのはHLA、よくわからんけど白血球の型が一致しなくちゃならんのんです。この一致が、数百から数万分の一の確率でしか起こらない。肉親の方が適合率高いけど、必ず合うわけじゃない。だから赤の他人のHLAをデータベース化しとく仕組みですわ。


数年前に友人が白血病で入院したのをきっかけに、吉村はドナー登録しましてございます。登録したはいいけど、トンと音沙汰なく、ソイツ以外の患者を私は知らんし、ソイツも一応治ったってコトになってるんで(白血病は「治った」という定義がややこしい)、忘れかけていた今日此頃。


「コーディネートのお知らせ(適合通知)

骨髄提供についてのご案内です」


うおおおおおおおおおおおキタキタキタキタアアアアッ!!私の骨髄をご所望の患者さんがいるらしいよ!ドナーやってくれませんかって!マジで?!さっき飲み屋で喋ってたばかりなのに!!


タイムリーなので大喜びで上司に書類の写真付きメールを送る。「こんなん来てましたー!仕事より人命優先、やる方向で進めますネー!たーのーしーみー!」という酔っ払いノリ、上司は「マジか…。大丈夫なんか?ちゃんと親にも言えよ」と、かなり引いた反応。ああ、そうか、知らん人は先ず心配するのか。身バレは絶対回避したいけど、知らん人に知ってもらいたいから、記事に書くことにするよ。


封筒の中身は、案内のパンフレットと、献血時に毎回あるよーなアンケートと、簡単な同意書。ホントに私がドナーやるなんて思ってなかったんで、初めて詳しい内容を知りました。


平日の昼間に病院に行かなきゃなんないこと8回前後

(多い…。3回くらいかと想像してたのに…。)

イザ移植するとなると平均3泊4日の入院が要ること。

(長い…。長くて2泊と想像してたのに…。)

家族立会いでの同意が必要なこと。

(めんどい…。遠いから書面でお願いしたい…。)


正直な感想は、思ってたより大変だな、ですわ。そりゃ患者さんのが全然大変、生きるか死ぬかみたいなんを問答無用にやらざるをえないんで、ドナーとしては気軽にやりたいんですが、職場と家族への説明を考えるとちょっと重い。特に職場、仕事を休まなきゃなんない。「人命かかってるんで!」と言えば許可される環境だけど、上司たちがそれを迷惑に感じないかというと疑問ですわ。理由は何であれ、たとえどんだけ喜ばしいことであれ、自分の負担が増えれば人は迷惑に思う生き物ですからね。いつも以上に仕事頑張ろう。


職場はともかく、必須なのが家族の同意です。アンケートには、配偶者親兄弟の同意の有無が問われています。配偶者はいねーから、親兄弟か。早めに連絡しとこうと、上司に言われるまでもなく実家に電話しました。


このテのコトについては、実家は軽く同意してくれます。臓器提供について私が同意を求めたときも二つ返事でしたし(アリスの死体のオススメは髪だよ!ヅラにいいよ!)、母は私と同じく「何でもどうぞ」と臓器提供意思表示してるし、そういやオカン、骨髄バンクのドナー登録しようとして年齢制限ではじかれたとか言うてたくらいやし。


案の定、「やりゃーええが(訳:やればええやん)」。心配はあるようですが、死にそうな患者を助けること、私がやらないと死人が出るかもしれないことを即座に理解しとったし、そもそも根が善良な市民ですからねアイツら、ボランティア精神、やれることがあるならやってあげてって姿勢です。


どんだけ心配でも結局は、やるかやらないかの二択を迫られる。この、「やる」としても、現段階では「やる方向で進める」ってだけの話で、勿論最後までやるだけの覚悟は要るけど、私は「やる」と言いきるより「やる方向で進める」って表現を選びました。そんな、生きるか死ぬかじゃないやん、ドナー側はさ。そういう強烈な白黒表現じゃなくて、気持ちとしてもっと軽く、事務的に冷静であった方が、知らん人は理解もしやすいかなーって。


HLAが適合しても、やらない可能性も多々あります。先ず精密検査をパスしなきゃなんないし、その他手続きに時間も取られ、その間に患者に何かあったら提供中止です。また、ドナー候補には知らされないけれど、ドナー候補は複数である可能性も無きにしもあらず、数人の候補を精密検査して、患者に最も都合のよいドナーを選ぶこともあるので、たとえ完璧な健康体であってもドナーにならない場合もあります。


「心配」の説明は追々書きますわ。私はだいぶん調べたので不安より遥かに楽しみのが大きいのだけれど、それはもう「ヒャッホーイ非日常キタアアア」みたいなノリだけど、知らない人ってホント心配したがるから、先ず私が「大丈夫」って知らせないとアカンのんよね。そこがちょっと面倒臭いわ。


「やる方向で進める」という私に、親と妹は同意してくれました。これで第一段階クリア、どうかどうか、最後までやれますよーに!こんな機会滅多にないよ!楽しむよ!私は!私が!楽しむからね!!

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