緊急依頼:ワイバーン討伐作戦(Part2)

 【悪食竜リドルゥ】がヒリュウに襲い掛かろうとした瞬間、何者かが【悪食竜リドルゥ】に駆け寄り飛び蹴りを放った。【悪食竜リドルゥ】は体勢を崩し、ヒリュウへの攻撃を外す。

 飛び蹴りを放ったのは筋骨隆々の男だった。男は袖が破れた柔道着を着ており、腰には黒い帯を、頭には赤い鉢巻を巻いていた。


「ちっ……俺の蹴りでも吹き飛ばないのか」

「お主は……!?」

「大丈夫か、ヒリュウさんよぉ?」

「助太刀、感謝する。【不動山】のテリー・マックスよ」


 Sランク冒険者パーティー【不動山】。アタッカーはリーダーのテリー・マックスのみで、残りの三人はサポーターという尖った編成のパーティーで有名である。さらに、そのアタッカーであるテリーは武器を持たず格闘技だけで狂暴なモンスターを次々と討伐していった。そのことから【不動の鉄人アイアンマン】の異名を持つ。


「【悪食竜リドルゥ】って言うんだっけか? ……アイツ固いな」

「気を付けよ。あのワイバーンは魔法を使う。更には近接攻撃、全てに毒が付与されていると思った方がいい……」

「はぁ……拳で戦う俺は不利かと?」

「そうでござるな」

「分かった……お前たち!! 支援を頼む!!」

「「はい!!」」


 【不動山】のパーティーと思われる三人の魔法使い達が一斉に杖を構える。


「我らに仇なす邪悪なる獣よ! 聖なる鎖で静まりなさい!! ホーリー・チェーン!!」

「我らに女神の祝福を与えよ! ホーリー・プロテクト!!」

「我らに仇名なす邪悪な獣よ! 女神の威光に平伏しなさい! ホーリー・レイ!!」


 三人の魔法使いが詠唱を唱えると、【悪食竜リドルゥ】の足元に白い魔法陣が展開されると光の鎖が飛び出し、【悪食竜リドルゥ】の身体に巻き付いた。

 そして、【悪食竜リドルゥ】とテリーの上空にも白い魔法陣が展開され、それぞれ強烈な光で照らされた。

 光を浴びた【悪食竜リドルゥ】の動きは鈍くなり、テリーは白いオーラに包まれていた。

 三人が唱えたのは聖魔法で敵の動きを止める束縛系統の魔法。相手の攻撃力、防御力、機動力を下げるデバフ魔法。そして、味方の攻撃力、防御力、機動力を上げ、状態異常を軽減させる補助魔法を発動したのだ。


「よぉし! やる気十分!!」

「テリー殿……気を付けるのでござるよ」

「わかってるって、ヒリュウさんよぉ! まぁ見てな!」


 テリーが構えを取ると、【悪食竜リドルゥ】は咆哮を上げると一瞬で絡みついていた鎖を引き千切ったのだ。


「嘘ッ!? ドラゴンでも五分は動きを止める鎖ですよ!?」


 そして、【悪食竜リドルゥ】は翼を大きく羽ばたかせ火球を放つ。


「おらぁ!!」


 テリーは火球を両腕でガードするが、爆炎に包まれてしまう。しかし、テリーは全く怯まない。炎が消えると両腕を力強く振るって炎を振り払い、ファイティングポーズを取った。


「へっ!  温いな!」

「グゥルルル……ガァッ!!」

「おっと!」


 【悪食竜リドルゥ】は毒の牙で噛みつこうとするが、テリーは華麗に躱す。そして、隙を見て正拳突きを放つ。


「せい!!」

「ガァッ!?」


 テリーは正拳突きを【悪食竜リドルゥ】の胴体に撃ち込む。その威力は凄まじく、地面が抉れてしまうほどだった。


「うし……毒も効かねぇな! 次はこっちから行くぞぉ!!」

「ガァァァ!!!」

「助太刀いたす!!」


 攻撃を食らった【悪食竜リドルゥ】が反撃してくるが、横からヒリュウが炎の斬撃を放つ。斬撃が直撃し、爆炎が上がる。ヒリュウはワイバーン対策として所持していた解毒薬で毒を治癒させ、動けるようになっていた。


「グゥルルル……ガァッ!!」

「させん!!  喰らえ!!」


 爆炎の中から【悪食竜リドルゥ】が飛び出しヒリュウに攻撃しようとするが、テリーが尻尾を掴み投げ飛ばす。


「おりゃぁぁあ!!!」

「グギャアァアアア!?」


 そして、テリーは渾身の一撃を【悪食竜リドルゥ】の胴体に打ち込む。すると、大きな打撃音が響き渡り、【悪食竜リドルゥ】の胴体は大きくへこみ地面に叩きつける。


「グゥルルル……ガァッ!!」

「!?」

「しまっ……!!?」


 だが、【悪食竜リドルゥ】は毒の牙でテリーの腕に噛みつく。そして、毒が注入された。


「ぐああぁ……!!」

「グギャアァアア!!」

「させるかぁぁあああ!!!」


 ヒリュウは【悪食竜リドルゥ】に斬りかかるが、尻尾で弾き飛ばされてしまう。そして、そのままテリーに噛みついたまま、首を大きく振り上げて、テリーを地面に叩きつける。

 テリーの体から骨が砕ける音が聞こえた。


「ッ!?」

「テ、テリー殿!?」

「グゥルルル……ガァッ!!」

「ッ!!??」


 ヒリュウはテリーが心配になり駆け寄ろうとするが、【悪食竜リドルゥ】に尻尾で弾き飛ばされてしまう。

 そして、【悪食竜リドルゥ】はテリーを捕食しようと顔を近づける。


「テッ……テリー殿!?」

「グゥゥゥ……!」


 その時、テリーの体が光り出した。すると、徐々に体を蝕んでいた毒が消え去ったのだ。


「あぶねぇ……やべぇ、死ぬかと思ったぜ」

「テリー殿!? 無事でござるか!?」


 テリーの体は白く光っており、傷は徐々に治っていく。先程、掛けられた補助魔法で毒を治癒し、さらにサポートの魔法使いがテリーに向かって杖を構えており、回復魔法を掛けていたのだ。


「うし! もう油断はしねぇぞ!!」

「ガァァアアア!!」


 テリーが構えを取ると、【悪食竜リドルゥ】も咆哮を上げる。そして、今度は二人同時で攻撃を仕掛ける。


「「うぉおおおお!!」」


 テリーは拳を構え、【悪食竜リドルゥ】の顔面を殴り飛ばす。そして、ヒリュウは剣で斬りかかるが、尻尾で弾き返されてしまい、そのまま毒の牙で噛みつこうとする。

 しかし、テリーがすかさず助けに入り、今度は回し蹴りを放ち吹き飛ばす。


「グゥルルル……ガァッ!」

「おっと! あぶねぇな……」

「助太刀感謝する、テリー殿」

「気にすんな! 一緒にコイツを倒すぞ!!」

「承知した!」


 二人は再度構えを取り、【悪食竜リドルゥ】に向かっていく。そして、テリーは顔面に向かって飛び蹴りを放つが躱されてしまう。だが、すかさずヒリュウの斬撃が飛んでくる。しかしこれも避けられてしまい翼で弾き返されてしまう。

 すると今度はテリーが軸足をひねり回転しながら突きを繰り出す。だが、それも避けれてしまった。


「クソッ!? 図体はデカいくせにちょこまかと動きやがる!!」

「テリー殿!  拙者が隙を作りますので、その隙を!」

「おうよ!!」


 ヒリュウは【悪食竜リドルゥ】の懐に潜り込むと、刀で斬りかかる。しかし、それを爪ではじき返されてしまう。そしてそのまま噛みつこうとするが、ヒリュウはギリギリで躱す。

 テリーは跳躍し、ヒリュウに意識が集中していた【悪食竜リドルゥ】に踵落としを放つ。テリーの踵落としは【悪食竜リドルゥ】の頭部にクリティカルヒットした。

 攻撃を食らった【悪食竜リドルゥ】はよろける。


「うし! 良いぞヒリュウさん!」

「お主こそでござる」


 二人は【悪食竜リドルゥ】にダメージを与え、反撃を受けるが即座に後方の魔法使いによって、回復魔法やサポート魔法で回復する。そして、再び攻撃を仕掛ける。


「テリー殿!  拙者は奴の尻尾を切り落としてみるでござる!!」

「分かった!  俺は胴体をぶっ叩く!!」

「承知した!」

「グゥルルル……ガァッ!!」

「うぉおお!!」


 テリーは渾身の一撃を胴体に叩きこむ。そして、ヒリュウも刀を振りかざす。すると、尻尾が斬り落とされ地面に落ちる。


「今だ! やれ!! テリー殿!」

「任せろぉぉお!!」


 テリーは拳で顔面を殴る。しかし、テリーと【悪食竜リドルゥ】の間に巨大な岩の壁が現れた。テリーの拳は岩の壁で遮られてしまった。


「な、何だ!?」


 テリーが驚いていると岩の壁が一瞬で崩れおち、目の前に砂嵐が吹き荒れる。テリーは砂嵐に巻き込まれ、身動きが取れなかった。


「テリー殿!?」


 ヒリュウが助けに向かおうとすると、今度は岩の礫が飛んでくる。


「しまっ!?」

「ヒリュウ様!!」

「殿!!」


 他のワイバーンと戦っていたシエンとコテツが合流し、コテツがこん棒で礫を受け止めった。


「助かったぞ!!」

「他のワイバーン達は他の冒険者に任せました。我々も戦います」


 シエンが印を結ぶと紫色の火球を放ち、砂嵐を吹き飛ばしてテリーを救出させた。


「げほ……げほ……助かったぜ。しかし、今のは?」

「【悪食竜リドルゥ】の魔法でござるな。ヤツは【地脈竜ガバナティ】【風鎌竜ネビルシュート】【溶岩竜マグナニス】を捕食したのだ。奴らの魔法を使えて当然でござるな」

「ってことは……火、土、水、風の四属性の魔法を使うのかぁ? マジか……」

「問題なのはそれ以外にもあるでござる」


 【悪食竜リドルゥ】は自ら生成させた岩の柱の上に飛び、ヒリュウ達を見下す。


「【悪食竜リドルゥ】はなぜ、火と風の魔法しか使わなかったのでござるか?」

「どういうことだ?」

「我々に火と風の魔法しか使えないと勘違いさせたように思えるのでござる」


 ヒリュウの言葉にテリー達は言葉が詰まる。


「……つまり、アイツは俺達を出す抜くための知能があると」

「元々、狡猾なヤツとは聞いていたが……ここまでとは!?」

「グゥルルル……ガァッ!!」

「来るぞ!?」

「迎え撃つでござる!」


 ヒリュウ達は身構える。【悪食竜リドルゥ】は大きく息を吸い込む。ヒリュウ達はその行動に見覚えがあった。【悪食竜リドルゥ】は空気を吸い込み、胸部が膨らんでいく。


「ま、まさか……」

「ブレスだぁ!!」


 【悪食竜リドルゥ】の口先に赤と緑の魔法陣が展開され、【悪食竜リドルゥ】が息を吐く。するとものすごい勢いの業火が広範囲で迫って来たのだ。


「全員! 逃げろぉぉお!!」


 ヒリュウ達のいた場所は何も残らず吹き飛び、凄まじい熱風が吹き荒れる。そして、テリー達がいた場所は灰塵と化していた。


「はぁ……はぁ……!」


 何とか物陰に隠れることができた者たちは無事でいたが……。


「くそっ!!」


 【不動山】の魔法使い三人は逃げ遅れてしまい、丸焦げの死体が三つ転がっていた。


「くそったれがぁぁぁ!!」

「落ち着くでござる!!」


 今すぐ飛び出そうとするテリーをヒリュウは必死に静止させる。


「テリー殿! 今行っても無駄死にするだけでござる!!」

「でもよ……!!」

「テリー殿……。今、我々がすべきことは【悪食竜リドルゥ】を倒すことでござる」

「ッ!!」

「ここで怒りに身を任せて飛び出しても、あの怪物に返り討ちに合うのが落ちでござろう」


 ヒリュウの言葉に冷静さを取り戻したテリーは深呼吸をし、気持ちを落ち着かせた。


「そうだな……悪かった」

「……拙者も少し言い過ぎた。すまぬな」

「いや、良いってことよ! それよりも……」

「うむ……。まずはあの怪物を倒すことでござるな」


 二人は再び構えを取り、【悪食竜リドルゥ】と対峙する。


「グギャアァアア!!」


 そして、ヒリュウは刀に炎を纏い、テリーは拳を構える。


「行くぜ!  ヒリュウさんよぉ!」

「承知!」


 二人は一気に駆け出し、【悪食竜リドルゥ】に向かって行ったのだ。




 一方、オスカー、【白き狼騎士ベオウルフ】、【黒鉄の蹄アイアン・フーフ】、【三賢者】の面々は襲い掛かるワイバーンの群れと対峙していた。


「今の爆発音は?」

「……誰かの魔法だと思いたいが……」


 オスカーはバスタードソードでワイバーンを次々と切り落としていくが一向に数が減る様子が無かった。

 皆が苦戦していると伝達魔法が使える【三賢者】の一人が声を上げる。


「伝令! 広場に【悪食竜リドルゥ】出現! 繰り返します! 広場に【悪食竜リドルゥ】出現!!」

「何だって!?」


 斧を振っていたオックスが驚きの声を上げる。そして、後方でワイバーンを屠っていたレオンも驚きの表情をしていた。


「現れたか……」

「マズいな…………」

「どうしましたか?」


 何やら考え事しているオスカーが心配になり、声を掛けるネスコ。


「広場にはギルドマスター、冒険者ギルドや魔法研究局の職員がまだいるはずだ」

「っ!? 急いで戻らないと!!」

「追加での伝令です! 【悪食竜リドルゥ】により負傷者多数! 現在は【鬼神炎雷】と【不動山】が交戦中ですが苦戦しているようです!!」

「……何?」

「どうする!? 【孤高の鉄剣士アルーフ・リベリ】!!」


 オスカーは少し考えこむと、レオンの方に視線を向ける。


「オックス。ここは任せても良いか?」

「おう! ワイバーン如きにやられるタマじゃねぇ」


 オックスはワイバーンを一刀両断しながら返答する。


「頼む……。レオン、俺達は広場に向かうぞ」

「分かりました! 皆、行くぞ!!」


 【白き狼騎士】のメンバーと同行していた魔法研究局の職員が頷くと直ぐに行動に移す。ワイバーンの群れはオスカー達に向かって襲い掛かる。しかし……。


「させません!!」


 ネスコは杖を構え、魔法を詠唱する。すると魔法陣が展開され、水の槍が雨のように降り注ぎ、襲い掛かるワイバーンを串刺しにしていく。


「魔力はまだ残っているか? 【水天のネスコ】さんよ?」

「えぇ、問題ありません。【断砕のオックス】さんも体力は残っていますか?」

「はっ! 言うじゃねぇか!!」


 【黒鉄の蹄】のメンバーが前に出てワイバーンを攻撃を盾で受け止める。その隙に後方から【三賢者】のメンバーが魔法で迎撃していた。

 ネスコも水の渦を作り出して、飛来しているワイバーンを次々と撃ち落とし、オックスは襲い掛かって来るワイバーンを真っ向から斧で叩き切る。


「ここが正念場だ!! お前ら気を引き締めろよ!!」




 【悪食竜リドルゥ】と戦っているテリーとヒリュウは苦戦を余儀なくされていた。シエンとコテツも加わり、四人がかりで戦っているが全く歯が立たなかった。

 【悪食竜リドルゥ】は遠くから魔法で攻撃するため、接近するのが困難であり、いざ接近すると毒の牙や爪で攻撃してくる。


「……はぁ……はぁ……全く……隙がねぇな」

「大丈夫でござるか? テリー殿」

「あ、あぁ……」


 一番動いているテリーは既に息が上がっており、体力も残り僅かな様子であった。


「テリー殿。ここは拙者達に任せ、テリー殿は先に……」

「ふざけんじゃねぇ! アイツは俺の仲間を殺したんだ……最後まで戦うぞ!」

「……ふっ。承知」


 四人は再び【悪食竜リドルゥ】に向かっていく。だが、全く歯が立たないどころか攻撃をする隙すらなく翻弄されていたのだ。


「くそっ!  なんでだ!?  攻撃が全く当たらねぇ!?」


 テリーが苛立ちながら拳を振るう。


「テリー殿!  落ち着くでござる!」

「うるせぇ!!」

 

 ヒリュウが声を掛けるが、今のテリーには全く届いていなかった。そんな様子を見ていた【悪食竜リドルゥ】は翼に魔法陣を展開して斬撃の突風を放つ。


「ッ!?」

「しまっ……!!」


シエン以外は避けることができず、攻撃を受ける。皆、立ち上がろうとするが力が入らず、立ち上がることができず地面に倒れ込む。


「ぐぅう!!」

「ぐはぁ……! こ、これは毒? 奴め、まさか魔法にも毒を付与できるのか……!?」

「こ、こいつ……!!  ゲホッ!」


 三人は直ぐに立ち上がり、再び構えを取る。だが、テリーの拳は血で染まっており、ヒリュウとコテツもボロボロになっていた。


「はぁ……はぁ……」

「くっ……!」

「くそったれがぁ!!」

「ヒリュウ様!!」


 シエンが駆け寄ろうとするが【悪食竜リドルゥ】の攻撃で邪魔されてしまう。


「くっ! 邪魔をするな!!」


 シエンは印を結ぶと、【悪食竜リドルゥ】の周辺に無数の紫色をした火柱が立ち上る。


「食らいなさい! 紫焔牢!!」


 追加で印を結ぶと立ち上る火柱は徐々に【悪食竜リドルゥ】に近づき、一本の巨大な火柱となって【悪食竜リドルゥ】を飲み込んだ。


「はぁ……はぁ……ヒリュウ様! 私が動きを止めている内にお逃げ下さい!!」

「何を言っておる!!」

「このままでは全滅してしまいます!!」


 シエンは何とかして【悪食竜リドルゥ】を抑え込んでいるが、【悪食竜リドルゥ】を飲み込んでいた火柱が一瞬で凍り付いた。


「えっ!?」


 シエンは何が起こったか理解できなかった。そして、凍り付いた火柱が崩れ落ちると中から【悪食竜リドルゥ】が悠々と出てきたのだ。


「ま、まさか……水と風の魔法を組み合わせて氷の魔法を……これでは【白き狼騎士】が倒した【氷白竜サバートラム】ではないですか」


 【悪食竜リドルゥ】は不気味な笑みを浮かべながら、ゆっくりとシエンに近づく。


「ヒリュウ様!! お逃げ下さい!!」


 シエンは紫色の火球を飛ばすが、【悪食竜リドルゥ】は火球を食らいながらも歩みを止めず、シエンに近づく。死を覚悟したシエンは懐から短刀を取り出す。

 【悪食竜リドルゥ】が口を大きく開け、噛みつこうとする。シエンも相打ち覚悟で【悪食竜リドルゥ】に飛び掛かろうとするが……。


「させるか!!」


 毒で動けないはずのコテツがシエンと【悪食竜リドルゥ】の間に入り、代わりに噛みつかれたのだ。


「ぐぅ!?」

「コテツ!?」


 コテツは痛みで顔を歪ませながらも【悪食竜リドルゥ】に掴みかかり、【悪食竜リドルゥ】の動きを止める。

 その様子を見てシエンは驚愕していた。


「な、何をしているんです!!」

「シ……シエンよ。お前は殿達を連れて逃げろ。お前なら解毒もできるだろ?」

「しかし……」

「行け! 我らの命は殿を守ることであろう!!」

「っ!? …………分かりました」


 シエンは我に返るとヒリュウ達の元に駆け寄り、ヒリュウとテリーを連れて逃げようとする。【悪食竜リドルゥ】はシエン達を逃がさない。というばかりに暴れる。

 コテツは毒で動けない体に鞭を討ち、【悪食竜リドルゥ】を抑え込もうとする。しかし、【悪食竜リドルゥ】は岩の礫を作り出し、コテツに向かって放つ。放たれた礫はコテツの腹部に突き刺さる。


「ぐあぁ!!」


 思わず倒れ込むコテツだが、それでも【悪食竜リドルゥ】にしがみ付く。【悪食竜リドルゥ】は追い打ちをかけるように再び、岩の礫を突きりだす。今度の礫は槍のように鋭く尖っていた。

 槍のような礫がコテツの背中に次々と突き刺さる。コテツは苦悶の表情を浮かべながらも離そうとしなかった。

 それを見ていた【悪食竜リドルゥ】は呆れたような表情を浮かべ、今度は口から火球を放とうとする。

 自分の死を察したコテツは次第に穏やかな表情になっていく。


「殿……シエン……先に逝く」


 【悪食竜リドルゥ】が火球を放とうとした瞬間、強烈な閃光が炸裂した。光を直視してしまった【悪食竜リドルゥ】はもがき苦しむようによろける。


「……大丈夫か?」


 呆気に取られていたコテツが我に返ると、そこには鉄の鎧を身に纏った男が立っていた。


「【孤高の鉄剣士】!!」

「…………後は任せろ……」


 オスカーはゆっくりとバスタードソードを抜き、構える。視界が回復した【悪食竜リドルゥ】がオスカーに気が付くと、今までにない程の不気味な笑みを浮かべる。

 その表情はまるで、復讐する相手が目の前にいる喜びを噛み締めているようだった。


「俺も会いたかったぜ……【悪角のリドルゥ】……いや、今は【悪食竜リドルゥ】……まぁ、名前なんて俺もお前も興味ないか」

「グゥルルル……」


 【悪食竜リドルゥ】は唸り声を上げながら翼を大きく広げる。オスカーは【悪食竜リドルゥ】が何を言っているのか、何となく分かっていた。


「あぁ……そうだな。ここで決着を付けよう……」

「グォォォォォォォ!!」


 【悪食竜リドルゥ】が咆哮を上げると同時にオスカーは【悪食竜リドルゥ】に向かって走り出した。

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