コント ビデオ屋

ジャンボ尾崎手配犯

第1話

舞台の真ん中に立っている伊達。

上手より走ってくる富澤。

富澤「すいません、遅刻しちゃって」

伊達「お前、バイト初日だぞ。もっと緊張感持てよ」

富澤「本当に申し訳ありません。死んでお詫びを……」

伊達「そこまではしなくていいよ。いいから、早く制服着替えてきて」

富澤「まさか、そういう趣味が……」

伊達「そんなわけあるか。制服ぐらい、だいたいのバイトにあるだろ」

舞台上手にはける富澤。

丈の短い制服を着て戻ってくる。

伊達「短いなー。ヘソ見えちゃってんじゃん。長州小力みたいになってんじゃん」

富澤「(小力風に)そんなことないですよ」

伊達「いや、なってんじゃん。もう時間ないから、そのまま店案内するわ。俺についてきて」

富澤「はい、はい、はい、はい、はい、はい」

伊達「はいはいうるさいな!返事は一回でいいよ」

舞台下手の方に移動する。

伊達「ここがね、新作映画のコーナーね」

富澤「今公開してる映画が見れるんですね」

伊達「そんなわけあるか。公開してる映画が並んでたら海賊版だろ、それ。映画泥棒だ、映画泥棒」

富澤「レーザーディスクは置いてないんですか?」

伊達「いつの時代だよ。レーザーディスクなんか、ここ十年以上見たことないわ」

富澤「ぼく結構映画好きなんですよ」

伊達「ああ、そうなの。だったら、映画コーナー担当してもらうことになるかもしれないな。何が好きなの?」

富澤「『ユニバG物語』です」

伊達「それ大神源太のやつだろ。初めて見たわ、大神源太のファン」

富澤「大神源太コーナーを作りたいんですけど」

伊達「作らなくていいよ、そんなもん。そもそもコーナー作れるほどないだろ」

富澤「店長はどんなアダルトビデオが好きなんですか?」

伊達「そこは、好きな映画を聞けよ。なんでいきなりアダルトのほう流れちゃってんの」

富澤「じゃあ、好きな映画は?」

伊達「そうだなあ、最近は小津とかが好きかな」

富澤「ああ、小津」

伊達「うん、ストーリーは割と落ちついてるんだけど、そこがこの年になると沁みてくるというかね。あと、ローアングルの撮影手法とか」

富澤「あれですよね、かかしとかライオンが出てくる……」

伊達「それは『オズの魔法使い』だろ。俺が言ってるのは、小津安二郎の方だから! (お辞儀して)あ、いらっしゃいませ」

富澤「急にどうしたんですか。お腹痛いんですか?」

伊達「違うわ。お客さんとすれ違ったら、こうやって簡単に挨拶するんだよ。元気よくな。覚えとけ」

富澤「(ポケットからメモを出して)じゃあ、今メモします」

伊達「それぐらいメモしなくても大丈夫だろ」

富澤「すいません、ペン持ってますか?」

伊達「メモ帳持ってきてんのに、ペンがないのかよ。いいよ、後でで。じゃあ、次の売り場案内するから」

奥に移動する二人。

伊達「ここがCDね」

富澤「コンパクトディスクですね」

伊達「なんで正式名称を言ったんだよ。まあ、洋楽とか邦楽とかジャズとか、ジャンル別になってるんだけど」

富澤「『ラーメンロック』おいてありますかね」

伊達「『ラーメンロック』って、なんでんかんでんの社長が出したやつだろ。置いてないよ、そんなもん」

富澤「じゃあ、置きましょう」

伊達「置かねえよ! 誰が借りんだよ! 次行くぞ、次」

舞台の上手に移動する二人。

伊達「ここがね、アダルト」

富澤「結構わかりにくいですねえ」

伊達「『18禁』のでっけえ暖簾かかってるだろ。どこがわかりにくいんだ」

富澤「僕、入っても大丈夫ですか?」

伊達「お前、18歳超えてるだろうが、何を心配してるんだよ」

富澤「僕、一度も入ったことないんですよ。ダウンロード派なんで」

伊達「いいよ、教えてくれなくて。そんな情報いらないから」

暖簾をくぐる二人。

富澤「(大きな声で)いらっしゃいませ!」

伊達「おい、声がでけえよ」

富澤「でも、さっき店長、元気よく挨拶しろって言ったじゃないですか」

伊達「ここではいいんだよ。気まずいだろ。会釈するだけでいいよ」

富澤「店長、すいません」

伊達「ん、何?」

富澤「丸まったティッシュ落ちてますけど」

伊達「あー、それはな、たまにあるんだよ。まあ、ここでやっちゃうというか、抜いちゃうというか」

富澤「どういうことですか? 詳しく教えてもらっていいですか……」

伊達「そういうことだよ、わかんだろ」

富澤「これ片付けなきゃいけないんですか?」

伊達「まあ、それも仕事だからな」

富澤「そんな! 時給900円の中に、使用済みティッシュを片付ける仕事が含まれているなんて知りませんでしたよ」

伊達「いちいち言うか、そんなこと。普通のゴミと一緒だよ。深く考えるな」

富澤「ちょっと今日で辞めさせてもらいます」

伊達「え、マジで言ってんの?」

富澤「最後に、社割でビデオ借りてから、帰りますんで」

伊達「使わせねえよ!」

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