40 実家への電話①・②

【実家への電話①】


 春近しです。

 庭を眺めながら五月先生が言いました。

「今年もピンクの桃の花、黄色い福寿草が鮮やかだなぁ」

 それを受けて、メイドさんが言いました。

「もうすぐ桃のお節句ですね。そうだ、母様に電話いたしましょ」


 トゥルルル、トゥルルル……。

 カチャ

「あ、母様、わたくしです」

「わたくしって、どちら様?」

「ですから、わたくしです」

「あらやだ、新手のオレオレかね、知らん」


 ガチャン!

 プー、プー、プー……。


「・・・」

 メイドさん、受話器を耳に当てたまま固まりました。


「どうした?」

「母様に電話切られました」

「きちんと名乗らないお前が悪い。しっかりした母上だ」

 それはどうでしょう?


「わたくしがわたくしと言うのはいつものことですのに」

「次はすぐ名乗れ」

「はい……」




【実家への電話②】


「リベンジ、母様に電話です」

 メイドさん、ちょっぴりムキになっています。


 トゥルルル、トゥルルル……。

 カチャ

「あ、母様、わ……いえ、めいとです」

「おや、めいとかい。実は昨日ね、オレオレの電話があってね……」

「母様、それわたくしです」

「え、そうだったんか。物騒な世の中だから用心しようと思ってね」

 なんとも言えない、抜け感のある会話です。


「わかってます」

「で、何の用だい?」

「もうすぐ桃の節句ですから、わたくしのお雛様、こちらへ送ってください」

「ん、わかったよ」

「お願いします」

 なんとも言えない、さっぱりした会話です。


「ところでお前、ホントにめいとかい?」

「本物です!」


 ガチャン!

 プー、プー、プー……。


「・・・」

 今度はメイドさんの母上が固まりました。

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