師走

20 泣くほど嫌い・干支

【泣くほど嫌い】


「メイド、ほら、さあ早く」

 五月先生、廊下でメイドさんの腕を引っ張っています。

「い、いえ。五月様お、お一人でどうぞ……」

 メイドさん、扉の枠を握りしめて抵抗しています。


「何を子供みたいなこと言ってるんだ!」

「うぇ〜ん、だってぇ〜」

 メイドさん、何をそんなに嫌がっているのでしょう?


「ほら、早く、行くぞ!」

「わたくし絶対にかかりませんからぁ。マスクして、ちゃんと予防しますからぁ」

 ほぉ、これはあれですね。


「いつまでもぐずぐず言うな、担いで行くぞ!」

「ふぇ〜ん」

「毎年毎年、インフルエンザの予防接種くらいで泣くな!」

「だってぇ〜、お注射嫌いぃ〜!」


 メイドさん半べそです。

 でも、かかってしまったら大変です。

 元気なうちに予防しておくに越したことはないのですよ。


「やっぱ担いでく」

「ふぇ〜ん」

 メイドさん、五月先生の肩の上でジタバタです。




【干支】


 今年も終わりに近づいてきました。

 五月家、本格的に年賀状準備のようです。

「来年の干支は酉だな」

「はい、五月様。にわとりでございます」


 五月先生、墨をすりながら横目でメイドさんに視線を送ります。

「お前、年齢詐称してないよな?」

「しておりませんって……」

 メイドさん、ほっぺを膨らませながらまっさらの年賀はがきを数えます。


「毎年出来合いの年賀状じゃ味気ないよな」

「そうでございますね」

「今年はアナログで描く!」

「ようございますね。わたくしも頑張ってにわとりさん描きます」


 さらさら、さらさら……。

 さらさら、さらさら……。

 五月先生、筆を滑らかに動かして描き進めます。

「よし、出来た」

「五月様とってもお上手です。わたくしも」


 さらっさら、さらっさら……。

 メイドさんも、筆を軽やかに動かします。

「出来ましたです」

「どれ」

 五月先生、メイドさんのはがきを覗き込みます。


「お前のは……これ、ペンギン?」

「五月様の一枚、お手本に貸してください……」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る