05 秋の夜・招き猫

【秋の夜】


 昼間は暖かくても、夜はぐっと気温が下がります。

 秋の気候になってまいりました。

「おーいメイド、綿入り半纏はんてん出して」

 半纏とは、いかにも和風家屋にお似合いです。


「えっ? もうでございますか?」

「うん、寒い」

「いくらなんでも早いと思います」

 そうですねぇ、綿入り半纏、結構あったかいですから。


「いいのっ!」

「あいあい。わかりましたでございます」

 メイドさん、不満気に二階へ上がります。


 ガタガタ……ゴソゴソ……。

 桐の箪笥たんすから、半纏を出しました。

「五月様、はいどうぞ」

「ん」


 次の日の朝、廊下に半纏が脱ぎ捨ててあります。

「いっ! なんで? 五月様ぁ〜」

 メイドさん、寝ぼけまなこの五月先生に半纏を突き出します。

「やっぱ暑い。し、重い」

「ほら〜、だから早いって言いましたでしょ」


「でも、シャツ一枚じゃ寒いから……」

 五月先生、クローゼットを開けます。

「カーディガン〜〜〜」

「ったく……」




【招き猫】


 9月29日です。

「五月様、今日は招き猫の日なのでございますよ」

「へー、そうなのか」


「来(9)る福(29)なんですって」

「なるほど」

「右手が挙がっているのが金運、左手が挙がっているのは人を招くのだそうです」

 一言で招き猫と言いますが、いろいろ種類があるのですね。


「へー」

「今は色もたくさんあって、それぞれに意味があるそうですよ」

「よく知ってるな」


 ちなみに、招き猫のモデルは三毛猫です。

 オスの三毛猫には気象性があるので、モチーフにしたようです。

 白は幸運を招き、黒は厄除け、赤は病除け。


「うちにもどれか一つ置きましょうかね?」

「要らないんじゃないか?」

「え〜、置きましょう」


「だから、うちにはお多福がおるって……」

「えっ?」

「いや、何でもない」

 メイドさん、まだわかってないようです。

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