『星降る夜空に願うのは』 その14
かくして、三人は日が暮れた頃、コテージを出発した。既にオフショットの何枚かはコテージの中で撮り終えているし、夜間でも撮影できるカメラは支給されている。あとは夜の部だけ、ということだ。
旭姫は暗闇の中が苦手。なまじその事情を知っているだけに、司狼は何度も大丈夫かと確認しているのだが、本人は「大丈夫」の一点張りだった。
「大丈夫だよ。僕が怖いのは閉鎖的な場所だけだし、二人がいれば大丈夫。それに、僕、今なら何でもできる気がするから」
旭姫はひとり早足で森の中を突き進んでいく。
大丈夫。今なら何でもできる。そんな言葉を、先ほどから旭姫は何度も繰り返している。
彼の言葉に嘘はないとしても、誇張はあったのかもしれない。かつて弟だった者の前で、弱い自分を見せてしまった屈辱と、彼らのユニットから発想を得てしまったという敗北感。その二つが、暗い森の中で旭姫をただひたすら仕事へと駆り立てていた。強がりと言ってもいいかもしれない。
どれほど歩いたことだろう。旭姫が颯爽と洞窟の中へ入っていった時、司狼もさすがに肝を冷やしたが、当の本人はけろりとしていた。湿っぽい空間の中で、普段なら真っ先に転んでしまいそうな眞白も、すたすたと歩いていく。
しばらく行くと、吹き抜けになっている空間があった。
闇の中から、ぽっかりと穴が開いて、そこに月と星が現れたようだった。
「今から、ここに星を降らせたい!」
旭姫がそう断言し、空に手を伸ばす。
一筋の星が夜空に流れた。
その星を掴むかのように拳を握りしめる。そして開くと、きらきらとした光が空中に舞う。蛍のようにほんのりと輝いているわけではない。太陽のように眩しくて目を開けていられないというわけでもない。夜空に散りばめられた星をそのままとってきたかのような、ほどよい強さで輝く光の粒が世界を鮮やかにしてくれる。
これが、旭姫の見せた魔法だった。
彼は島で、思い切り『魔力』を解放させたいと言った。実験でも何でも構わない。もし、未来の自分がステージの上に立った時、どれほど幻想的な光景を観客に見せることができるのか、試してみたい、と。
その結果が、まるで「星を自らの手で掴んでみせた」かのようなこの光景だった。
「これを、この島のお宝ってことにすれば、いいんじゃない?」
斜に構えて微笑む旭姫を、司狼はそのままカメラにおさめた。
今でも星に願うことがある、と空翔は言った。それを聞いてしまえば、意地でも願ってたまるものかという気持ちに、旭姫はなってしまうのだ。
もうあの頃のような、純粋に夢を信じられる少年じゃない。
夢があるなら、どんな手を使ってでも、叶えてみせる。形振りだって構ってられない。
自分のパフォーマンスを観客に見てもらえるのであれば、『マジック・ライブ』を人前で疲労することが許されるようになるのであれば――彼女の汚名を雪げるのであれば、何だってする。
だから、自分は、星に願うのではいけない。空の下で祈っているなんてまっぴらごめんだ。
神頼みでも迷信信仰でもなく――夢はこの手で掴むものだ。
旭姫の思いつきの奥底には、もしかしたら、こんな考えがあったのかもしれない。
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