『星影祭当日』 その3

「オレがちょ~っとしなを作って「困ってるの~♡」とか言えば、力になってくれる男なんてこの学園には山ほどいるんだよ! なにせ、男子だらけの学科の中に咲く一輪の造花なんて呼ばれた、男の娘だぜ?」



 逆に今の発言をその山ほどいる男とやらに聞かれていたら幻滅どころの話ではないと眞白は思うのだが、その辺りも大丈夫だと夕は言った。曰く、彼らは「騙されたくてアイドルに騙されている」のだから。



 演じていた、と思った。夕は本当は「男」なのに「男の娘」を演じさせられている、と。



 その理由は、デビューするためであったり、デビューした後に売れるためであったり、要するに、「アイドルとしての生存戦略」で、仕方のないものなのだと。

けれど、夕は「本当の自分をさらけ出すべき!」だとか、「本当の自分はこんなんじゃないんだ!」といった闇とは無縁の人物らしい。



 それはともかく――。



「どうして……?」



 どうして、自分に、自分なんかに、ここまでしてくれるのだろう。



 絶望の淵に座り込んでいた自分に手を差し伸べ、スポットライトの下にまで連れて行ってくれた旭姫や司狼以外の人間は、すべて醜く、愚かしく、そして残酷なのではなかったか。



「どうしてって……あー、オレさ、アンタのパフォーマンス、好きなんだよな」



 少し照れたように頬を掻きながら、夕はぶっつけ本番の告白を眞白に文字通りぶつけてきたのだ。



「アンタのパフォーマンスは、一目見てかっこいいやつだって分かった。オレの外見がもっと男らしくて、オレの魔力がもっと強ければ、アンタみたいなパフォーマンスができたのにって、ちょっと悔しくなっちまうくらい……。だから、まー、アレだな。憧れ、ってやつ?」



 改めて口にしたら、告白とは想像以上に恥ずかしいものだったらしい。照れ隠しに眞白はばしばしとたたかれてしまった。



「だからさ、今回の『星影祭』も、土壇場でアンタらのステージが見られるって知ってオレは楽しみにしてたんだ。余ってる布をかき集めてくるくらいどうってことねえよ。オレ達の衣装の方は、まあ、今頃リーダーがなんとかしてんだろ」



 だから、ここで待っててくれよな、と、夕はすぐさま駆け出していった。

その走りは、先ほどの眞白と同じくらいか――むしろ、眞白よりも速い。





 憧れ、とは、初めて聞いた言葉だ。

 言葉の意味は知っていた。眞白がアイドルを目指したきっかけも、その「憧れ」によるものだったから。

 でも、自分はアイドルの憧れを抱く側の人間であって、まさか憧れを抱かれる立場になるなんて、今まで微塵も、考えたことがなかったのだ。



 そこまで思い至った途端、胸がじわりと熱くなる。



 自分にとっての憧れは、旭姫と司狼だった。



 けれど、アイドルを目指している限り、そしてアイドルとして生き続ける限り、自分が誰かの憧れにもなれるのだ。



 あの日、初めて『Nacht』の『プレライ』を見た感動を、絶望の中で生きる希望を見出したきっかけを、自分が誰かに与えることができるのだ。



 今日の舞台、絶対、成功させてみせよう。



 いつもの『プレライ』以上に、眞白は強く決意した。

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