ステージ上の魔法使い
@noriyasunorio
プロローグ『魔法の歌姫――ソルシエール――』
画面がキラキラと輝く光で覆われた。
長く美しい黒髪をさらりと揺らしながら、彼女を歌い、踊り、笑顔を見せる。
彼女がパチンと指を鳴らすと、頭上の風船が割れた。中から飛び出したのは、数多の光の粒。それらはハートの形を成して、ファンの下へと飛んでいき、弾けた。
その幻想的な光景に、ライブ映像に映らなくとも、ファンは溜息をもらしたのだろうと容易に想像できた。
魔法はそれだけでは終わらない。曲によっては、一陣の風が舞い、柔らかな粉雪が降り注ぎ、様々な季節を代表する花々が咲き乱れる。
これは魔法だ。アイドルだけが使える、特別な魔法。
何度も、繰り返し繰り返し、それこそDVDが回転しすぎて擦り切れるのではないかというほど見た映像を映す画面を指でなぞりながら、少年は呟いた。
「……母さん。僕、いってくるね」
今日が、少年の初舞台だった。
画面に映る少年の母と思しき女性は、笑顔でアンコールに応えているところだった。
当時の少年は、何も知らなかった。いや、少年どころか、当時会場に入っていたファンも、スタッフも、知らなかったに違いない。
歌い、踊り、魔法を使う彼女の笑顔が、「死」と隣り合わせにあったということを。
母の笑顔を目に焼き付け、少年は映像を止めた。
「……僕は、死なない」
何度も胸の内で呟いていた言葉を、初めて口にした。
僕は死なない。母のように、死んだりしない。
生きて、生きて、生きている限りステージの上で歌い続けてやるのだ。
ずっと、アイドルとして、生きていくのだ。
そうすれば、アイドルであった母の「死」という汚名も雪げるに違いなかった。
少年は立ち上がり、扉を開け、楽屋を後にした。
外に出た途端、彼は沈鬱な表情を消し去り、笑顔を纏った。
柔らかな微笑で外に待つユニットメンバーの下に駆け寄っていく彼は、まさに、アイドルとしての輝きを持っていた。
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