第59話 上空の告白

「オレぁ、世間じゃ有尾人て呼ばれる、いわゆる亜人種でね。もっとも軍属になるときに、尾っぽは切っちまったんだがよ」



「℃%�⊆@◇◇�?」



 スキピオは出自を語るが、背中にしがみつくミトラは、言語にならない悲鳴をあげながら、ろくに相づちもうてなくなっていた。

 無理もない。さっきから何度となく地上と上空一〇パス(約十五メートル)のアップダウンを繰り返している。

 が、どうやらウォームアップだったらしい。

 高さ一五パス(約二二・五メートル)の城壁が近づいてきた。

 城門を攻める宦官兵の一部が気づいて、長槍を振りあげ何か叫んでいる。

 スキピオは意にも介さず、



「若かったんだなァ。亜人種、亜人種って馬鹿にされてよ。しゃらくせェ、そんなら軍人になって見返してやると言ったら、族長の爺ィが反対してな」


「&#◎�△�≒!?」


「そっからはお決まりの大喧嘩さ。んで生まれた村を飛びだして、募集広告みて亜人部隊に飛び込んだ。腕一本でひと旗あげてやろうって、まあ、鼻息ばっかり荒かったもんだ」



 語りながら歩幅をひろげて全力疾走。

 なるほど、速い。これならウシケラトプスからも逃げ切るだろう。景色が跳ぶように流れていく。

 放たれた矢の雨をくぐり抜け、さらに城壁に走り寄ると、迎え撃つ宦官兵もまた目と鼻の先。

 繰り出される長槍を踏みつけてホップ、剃り上げた禿頭でステップ……次の瞬間、



「あらよっと」



 ふわりと宙に浮いて、そびえたつ城壁を遥かに越える大ジャンプ。

 あんぐりとして見上げる宦官を眼下に、王都の空高く舞い上がった。



「℃◆�≧�∠@∵~?」


「まあ、現実は甘くねェやな。決闘沙汰やら乱痴気騒ぎやら、散々馬鹿やったあげくに、負けいくさの責任をおっ被って、亜人部隊に、あっさり取り潰しの沙汰がおりちまった」


「〓【∞�㈱$】≫!?」


「オレら普段から人間たちに蔑まれてたんで、それを根に持ったんじゃねェかって、その国の王族に疑われてな。平たく言やァ、内通を疑われたのさ。滅亡秒読み段階の国にゃよくあるこった」


「∩⊆%Å�→(T_T)!?」



 大きな放物線を描いて、町家に着地したかと思えば、屋根瓦を粉々して穴を開け、すぐさま次の跳躍へ。

 易々と王都に飛び込んだぽっちゃり系は、旧市街の平屋根、商家の寄棟屋根、寺院の尖塔、飾りの石像、礼拝堂のドームなどを次々踏み台にしながら、中心にある王宮に向かって跳ねていく。

 その背中のミトラは息も絶え絶え、目を白黒。風をはらんで広がる嫁入り装束だけが、青空にハタハタとはためいていた。



「もっともオレらの素行も最悪で、そこらじゅうの恨みを買ってたから、半分は身から出た錆だがね。結局、四面楚歌の籠城中だってのに、亜人部隊を束ねてくれてた隊長の首を斬りやがったんで、ほとほと愛想がつきてよ。有無を言わさず開門して、そのままトンズラしたきたってわけさ」


「@&∬∀�⑦ΔΠ★!?」



 宦官の城攻めに怯える王都の住民は、上空にあらわれた人影の怪異に驚愕した。

 いまにも城門が破られようという折も折、宦官が放ったあやしい妖術に見えても仕方ない。

 叫ぶ者、指差す者、祈る者、女子供を隠す者。勇気ある男衆には小石や棒きれを投げつける者もあるが、まるで届かず地上に戻ってくる。


 ここでもまた、恐慌状態が起きかけていた。

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