第5話 退場してもらうにゃん

「一真さん、しずくちゃんにいかにも仕事してるぞってアピールできるイベントがあるんですけど、参加しませんか?」

 呼び出した一真さんをリビングに通してお茶を出すなり、すばるはそう言ったにゃん。


「話を聞きましょうか」

 一真さんはすばるの言葉を聞くと、即座に笑顔で話に食いついてきたにゃん。

 ……扱いを心得てるにゃん。


 それからすばるはここ最近、鰍とすばるがとある人物に付きまとわれている事、その人物が鰍の中学時代のクラスメートで、このまま放って置くと危険なストーカーになりかねない事なんかを一真さんに説明したにゃん。


「ところで、その元クラスメートというのは、以前僕も会った事がある人物ですか?」

 一真さんは大人しくすばるの話をきいていたけど、それが終わると、首を傾げて鰍に聞いてきたにゃん。


「そうだにゃん。啓介だにゃん」

「待ってください、一真さんは西浦さんと面識があるんですか?」

 鰍が頷くと、すばるが驚いたように尋ねてくるにゃん。


「高校の時、啓介に絡まれてた所に霧華さんと一真さんが通りかかったのが出会いだったにゃん」

「……聞いてない」

 不満そうな顔ですばるが言うけど、その顔でむくれてもただ可愛いだけだにゃん。


「その後特に何かあった訳でもないし、言う程の事でもないと思ったにゃん」

「妬きました?」

「妬いてませんっ」


 鰍の言葉に便乗するように一真さんが尋ねれば、すばるは拗ねたように否定したにゃん。

 その否定の仕方は、肯定にしか見えないけど、鰍としてはそっちの方が可愛いので何も問題は無いにゃん。


「それで、どう彼を撃退するんです?」

「とにかく、こいつの隣にいたくないって思わせたいです。随分とプライドが高そうでしたので、それを酷く傷つけられるような方法がいいと思います……例えば」


 そう言ってすばるはいくつかの案を上げたにゃん。


 すばると鰍と一真さんと啓介の四人でどこかに出かけて、終始内輪ネタで盛り上がってかつずっと一真さんを持ち上げ、反対に啓介を空気のように扱う。


 すばると鰍と啓介の三人で出かけて、終始恋人である一真さんの惚気を話しつつ、鰍がすばるに恋人のどこが一番好きかと聞いて、啓介には当てはまらず、幻滅する要素を挙げる。


 鰍がすばるの本性を見せると言って喫茶店に呼び出し、鰍とすばるが座っている近くの席に座らせる。

 そこですばるが横柄な態度で残念発言を繰り返しつつ、鰍に啓介の話をふられて、見た目から話し方から何もかも全否定して嘲笑う。


「あと、写真でも実際出てくるのでもいいので、視覚的に実際に彼氏の存在を確認するというのも結構けん制にはなると思うんです」


 指折り数えながらすばるが言うにゃん。

 ……結構本気でご立腹っぽいにゃん。


「喫茶店に呼び出すの以外は良いと思いますよ」

「そうだにゃん。それだけはやめた方が良いにゃん」


 一真さんの言葉に鰍は頷くにゃん。

 多分、すばるもかなり頭にきていると思うけど、やめた方が良いにゃん。


「確かに人気商売してるのに、他に誰が聞いてるかもわからない公共の場で、あまり滅多な事を言うものではないですね……私に何かあったら事務所やブランドにも迷惑がかかってしまいますし……」


 すばるは反省してちょっとしゅんとしたように言ったけど、それだと鰍達が伝えようとした事の半分しか伝わってないにゃん。


「……それもありますが、すばるさんがやると、余計事態が悪化するような気しかしないので」

「すばるは横柄な演技とか下手だから、最悪逆効果になりかねないにゃん」

「なっ……!?」


 ため息をつきながら指摘すれば、すばるは驚いたように目を見開いたにゃん。

 すばるは将晴の考える女の子像のせいもあって、かなりあざと可愛い感じになってるにゃん。


 それはまだ可愛いからいいにゃん。

 でも、それが染み付いているせいか、たまにそれから外れた事をしようとすると、なりきれない感があるにゃん。


 すばるの格好してる時は普段の口調でさえも丸くなってる気がするにゃん。

 そんなすばるが無理して横柄な態度をとろうとしても、どうせ『普段おしとやかな女の子が背伸びして悪ぶってる』感しか出ないと思うにゃん。


「そんな事無い! 演技は得意なんだから!」

「じゃあちょっと悪女っぽい感じでやってみるにゃん」

 それでもすばるは納得いかないようなので、実際に悪女を演じてみてもらう事にしたにゃん。


「こ、この私を五分も待たせるなんて使えない男ね! ……ご飯は三ツ星以外許さないんだから」

 腕を組みながら頬をほんのり染めて、若干恥らいながらすばるが言うにゃん。

 ……悪女というか、逆にちょろそうな感じさえしてくるにゃん。


「すばるは鰍が守るから大人しくしてるにゃん」

「すばるさん、無理しないでいいですよ」

「二人して哀れみの目で見ないでください!」


 すばるもさすがにこれは違うと思ったようで、その後は大人しくなったにゃん。

 でも、他の案は良さそうだったので採用でいいと思うにゃん。


「それはそうと、啓介に自分が無能だと感じさせるというのも良いかもしれないにゃん。一真さんがてきぱき作業してる時、所在なげにオロオロしてる啓介の側で鰍とすばるが『やっぱり彼氏にするならこういう人じゃないとねー』とか言うにゃん」


 隣に座るすばるの頭を撫でながら、鰍は提案するにゃん。

「それはまた悪趣味ですねぇ」

 とは言いつつも一真さんは愉快そうに笑いながら鰍に続きを促してくるにゃん。


「啓介はインドア派だったし、フェイスブックを見た限りだとせいぜい夜遊びを憶えた位だと思うので、アウトドア派の何かがいいと思うにゃん」


 一応啓介のSNSは教えられたフェイスブックとツイッターをチェックしたけど、飲み会行っただとか、常識や恋愛論について語ったりしてたにゃん。

 正直、自分に酔ってる感じしかしなかったにゃん。


「ではバーベキューなどどうでしょう? 道具も全て貸し出していて、食材もその場で仕入れられるバーベキュー場もありますし」

「それは良さそうだにゃん」


 一真さんにそんなアウトドアな趣味があったなんて意外だにゃん。

 話を聞いてみると、しずくちゃんの屋敷で働いている人達に誘われて何度か参加した事があるらしいにゃん。


「ただ普通のバーベキューセットだけだと味気ないですし、せっかくだから何か他に持って行っても良いかもしれません。鰍さんは何か食べられない物はありますか?」


「特に何も無いにゃん」

 バーベキューの話しをしていると、だんだん啓介の事は置いといて、普通に楽しみになってきたにゃん。


「ちょっ、私抜きで話を進めないでくださいっ」

 途中で復活したすばるが思い出したように口を挟んだにゃん。


「おや、今の話で何か問題がありましたか?」

「いえ、話の内容自体には何も文句はありませんけど……」

 一真さんが尋ねると、すばるは決まり悪そうにたじろいだにゃん。


「すばるはバーベキュー嫌かにゃ?」

「嫌じゃない……」

「じゃあ決定にゃん」


 すばるのわき腹を突っつきながら言えば、ちょっと恥ずかしそうにすばるが答えるにゃん。

 多分、本人はそんなつもり無いんだろうけど、あざといにゃん。

 でも可愛いにゃん。


 だけどその可愛さは鰍の前だけで発揮してればいいので、とりあえず啓介にはさっさと退場してもらうにゃん。

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