「デュークすまない。私にはよく話がみえないんだが」


 クライスが困った顔をしてデュークに言った。


「(よくぞ言ったクライスさん。私も話が全然わかんないっ!)」


 レイチェルは、とりあえず、皿に残った蜂蜜を指にとると暇を潰すように、口へと運んだ。


「痩せて、人相は多少変わっては居たけれど、最初にその男の顔を見たときにどこかで見た顔だと思ったんだ」


「知り合いかい?」


「違う。その顔を見たのは、半年前程の新聞でのことだ」


「有名人と言えば……コメディアンかい?」


「そっち方面の有名人じゃない。あれを寄贈した人物だ」


 そう言いながら、デュークは肩越しに、セント・ジョージア公園にある、大きな獅子銅像を指さした。


「確か、あれを寄贈したのは……フランクリン・ジェノバ……財界の大物じゃないかっ!」


 クライスが勢い余って、大きな声を出してしまった。それくらいフランクリン・ジェノバと言う人物は財界では著名人なのである。 

 レイチェルの調べでは、侯爵位を女王陛下から賜った人物でもある。


「そうだとも、値段もろくすっぽ聞かずに、財布から50ポンド紙幣を何枚も出してくるんだぜ。そのあたりで大体ピーンと来てたね」


「うーん。どうなんだろうな。普通は小切手なんじゃないのかな?」


「例え小切手を持ってたって、あれだけずぶ濡れじゃ小切手なんて使えやしないよ」


「なるほど。その後どうなんだい?」


「あぁ、フランクリン候が財界人の面々に進めてくれてるみたいで、大口の注文がひっきりなしで、毎日嬉しい悲鳴が止まらないよ。損して徳とれ。商売人の心得だよ」


「君には天性の商才があるんだなぁ。感服するよ!」


 クライスはデュークの成功を心から喜んでいるようだった。



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