ウィスパー寄稿文店主の憂鬱 Ⅱ

畑々 端子

前書き


 ネイマール・ライリーは、アミューズブーシュ社の受付嬢をしている。本当はもう一人いるのだが、今は産休で休んでいるため、全ての業務をネイマール一人でこなさなければならなかった。

 以前よりも早く出社を終えて、日課である今日のアポイトメントリストに目を通してから、手鏡で笑顔の練習をする。これも日課。

 ネイマールは普段化粧をあまりしない。だから、通勤途中使う路面電車で見事にアイラインを引く女性をみると感嘆の声をあげてしまいまそうになる。


「受付は会社の顔だから、お化粧も嗜み。あなたも若さにかまけていては駄目よ」


 入社してすぐに先輩に言われた言葉。

 それ以来、ネイマールも化粧をするようにした。面倒くさいとまでは思わないまでも、化粧の具合が気になって手鏡が手放せなくなったことにとても困っている。

 化粧をすれば、何か変わるかな?キャシーのように男性社員からご飯のお誘いを受けるようになるだろうか。

 そんな淡い期待も抱いた時期もあったが、まだ一度として誘われたことがない。


 どうやら、それと化粧とは関係がないみたいだ。


「おっはよ~っ」


 今朝も一番にレイチェルが投書箱の中を見にやってきた。


「おはよう。いつも早いね」


「まぁね。はい、今日もいつも通り何も入ってませんでした!異常なしッ!」


 ニカニカ笑いながらそんなことを言うレイチェルと一緒になってひとしきり笑いあってから、「じゃね~」と帰ってゆく彼女の背中を見送る。これも日課。


「よしっ」


 今日もネイマールの一日がはじまるのであった。

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