青春トーク
水谷なっぱ
違う世界
「なあ、サトリ。宇宙人っていると思う?」
学校帰り、隣を歩く友人・トウヤが聞いてきた。
「居れば居るし、居なけりゃ居ないんじゃん」
思った通りに答える。
「何だそりゃ。お前って名前の通り、悟ったようなこと言うよなー。
このじじいめ」
「誰がじじいだバカ。お前の方が年上だろ」
俺3月生まれ。
トウヤ4月生まれ。
ほとんど一年分トウヤが年上だ。
「居ると思うんだけどな、宇宙人」
「居たらどうするんだよ」
「仲良くなるよ」
確かにトウヤなら仲良くなれそうだ。
トウヤは誰とでも友達になれる特殊能力が付いている。
同世代からも年下・年上からも受けが良い。
俺とは真逆だ。
友達が少なくて、年下からは何故か怖がられる。
年上からは生意気だって嫌われる。
何故かかなり年上からはかわいがられるけど。
トウヤからすればそれが俺の能力らしい。
特異な科目・苦手な科目・好きなこと・嫌いなこと
全部真逆。
俺とトウヤを足して割らなかったら一人前だとたまに言われる。
失礼な話だ。
俺は俺で十分だしトウヤはトウヤで十分だ。
「じゃあ、仲良くなるためにどうすんの」
それでもトウヤの誰とでも仲良くなれる能力が羨ましいから聞いてみる。
人間ってこうやって学んでいくんだなってたまに思う。
トウヤもたまに同じようなことしてくるから。
「まず「はじめまして」だろ」
「日本語通じなかったら?」
「わかるだけの言葉で言ってみる。「halo」「Ciao」「にーはお」「Hello」」
「まて、何で最初にインドネシア語が来た」
「サトリはよく気が付くな」
そう言ってトウヤはにいっと笑った。
たぶんこの笑顔が友達作りの秘訣なんだろう。
俺はよく仏頂面だと言われる。
無表情で怖いとか。
顔の筋肉のやる気がないだけなんだけどな。
「でさー、最初の「「居れば居るし、居なけりゃ居ない」ってどういうこと?」
「えー、そのまんま」
河原を自転車を押しながら歩いている青春。
となりに友達がいて、くだんないこと話して。
トウヤの質問は完全に無視だ。
青春がブルーな春じゃなくて、青い春だと感じられて平和だ。
「なんだよー。また一人で悟っちゃって」
「説明が面倒なんだよ。
例えばさー、俺が思ってるお前とお前が思ってるって違うじゃん」
「そうだな。完全無欠のイケメンの俺だけど、
お前は意地張っちゃってそれを認めないもんな」
「そういうことはせめて数学と物理と地理のテストを平均点以上取ってから言おうぜ」
「サトリは痛いとこ突くなー。だからもてないんだよ」
「うるうせえ」
話がずるずる脱線する。
ここいらで元に戻す。
「世界がさー違うんだよ。俺とお前じゃ」
「何、邪忌眼の話?」
「ちげー。さっきも言ったけど、俺とお前とだと考え方も感じ方も違うじゃん。
俺はこの川の匂いとか草の匂いとか好きだけど、お前、そんな匂い気づいてもいないだろ」
「え?川とか草に匂いとかあるの?」
「あるよ」
川の湿度の高い匂いが鼻孔をくすぐる。
駆りたての草の匂いが夏を感じさせる。
下がっている。
家では人間ウェザーリポーターの母が頭痛を訴えているだろう。
夜か、明日は雨かな。
「そんなんだからさー、宇宙人がいると思っている奴の世界には宇宙人はいるだろうさ。
トウヤの世界には宇宙人がいて、俺の世界には俺とその以外の人間と匂いが充満してるよ」
「サトリは人見知りするからな。あ、この場合宇宙人見知りか」
あはははは
トウヤはなにがおかしいのか転げまわって笑っていた。
サトリはそっと自転車を引いて距離を取る。
「なんだよー、他人のふりとかすんなよー」
「ばれたか」
「もろばれだって」
トウヤはにやにやしながら話しを続ける。
「確かに、いろいろみんな違うよなー。俺とお前だって同じ男子高校生なのに、こんなに違うんだもんな。
そっかー、サトリはそれを世界が違うって表現すんのか。おもしれー」
「お前、馬鹿にしてるだろう」
「してねーし。人と人の物の見方が違って、それを「違う世界」って表現するのがすげえって
おれ、褒めてるつもりなんだけど」
「全然褒められてる気がしないし。でもその「違う世界」ってのが一番しっくりくる気がすんだよ。
俺は俺の携帯、黄色いつもりで買ったのにトウヤはオレンジって言うし、他の連中もさ
俺と同じように黄色って奴もいれば緑ってやつもいたんだぜ?
たった一色の色でもこんだけ違って見えるなんてさ、もう異世界人だよ」
「宇宙人とは違うの?」
「宇宙人て何?」
「え?宇宙にいる生き物?異星人?異世界人と何が違うんだ?」
サトリの質問にトウヤは首をかしげる。
実のところサトリだって答えなんか持っていない。
自分。
あとそれ以外。
正直一番簡単な分類はそれだけな気がする。
「あー、ダメ。考えすぎて知恵熱出そう」
「お前の頭には知恵は詰まってないから安心しとけ」
「するか!失礼なサトリだな。この宇宙人め」
「俺も宇宙人だな。そういや」
言われて気が付いた。
そうだ。地球だって宇宙の一部だから俺も宇宙人だ。
そして気が付いた。
「トウヤ、お前だって宇宙人じゃねえか。
ここに宇宙人の存在が証明されました」
「人を新生物が発見されたみたいに言うなよ…。でもそうだな。
サトリが宇宙人なら俺も宇宙人だな。同じ男子高校生だもんな。
ヒト科ヒト目男子高校生属」
「途中から盛大に間違ったな」
「ヒト科ヒト目OL属とかヒト科ヒト目幼女属とか」
「お前守備範囲広いな。でも幼女は止めとけ。犯罪だ」
分類訳が大いに誤っている気がするが、突っ込んだら負けなのだ。
しかし、友人が犯罪に身を委ねようとしているのを黙って見ているわけにはいかない。
サトリは再び、そっと自転車を引いてトウヤから距離をおいた。
「こら、何、目背けてんだよ!!俺ロリに興味ないから!!
下は3歳、上は一回りまでだから!!」
「意外と年上線なのな」
「綺麗なお姉さんが大好きです」
「明日、隣のクラスの美咲ちゃんにそうトウヤが言ってたって伝えとくわ」
「やめてください。お願いします。このとおりです」
自分。
友達。
あとそれ以外(異性と親と教師含む)。
男子高校生の分類訳なんてそんなもんだな。
トウヤを見ながら思う。
サトリとトウヤは違う世界の住人だ。
だけど、わりと近い世界の住人だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます