カリーネ、猟師とオオカミに会う――「オオカミ兄妹」の想区――

@ahiru_puropera

第0話 古にありえた“原典”の“おさらい”

 魔法の竜と少年に別れを告げた入江からひと月ほど歩き、カリーネとオオカミの兄様がたどり着いたのは深い森が広がる山でした。そこでふたりはオオカミの群に出会います。オオカミ達は皆ひどくお腹を空かせていたので、カリーネは竜からもらった干し魚をみんな分けてあげました。群の長に話を聞くと、麓の村に住む猟師が罠や鉄砲で仲間を捕まえて回っているというのです。猟師から逃げ回るためにオオカミたちは満足に狩りができずにいました。これを聞き、我慢ならなかったのはカリーネです。オオカミたちを、そして彼らのお家を守るため、カリーネは猟師と戦います。

 とはいえ流石に猟師を弓で仕留めるのはいけません。カリーネは一生懸命考えて、森の中にたくさんの罠を仕掛けました。

 明くる日、群の中でもひときわ俊敏なメスが、オオカミ狩りにやってきた猟師を森の奥へと誘い出しました。猟師はとても困惑しました。オオカミを追いかければ追いかけるほど、自分が仕掛けた覚えのない罠に襲われるのです。しかもそのどれもが今まで見たことも聞いたこともないような罠でした。藪の中へ分け入るたびにしなる枝が猟師の脛を撃ち付け、木の下を駆け抜けようとすると上からトゲトゲの木の実がドッサリ落ちてきます。草のツルに足を取られて転び、ひどくかぶれる葉っぱの山や、食べるとお腹を壊す赤い実の藪に頭から突っ込まされたりもしました。ヘトヘトになった猟師が岩に腰掛け休憩している所に、カリーネは後ろからそっと忍び寄り、置いてあった鉄砲をヒョイと取り上げました。鉄砲が無くなり慌てる猟師に向かって、身を隠していたオオカミたちが一斉に躍りかかります。猟師は追いかけられ、追い立てられ、とうとう追い詰められてしまいました。

 カリーネは猟師にオオカミたちを虐めるのを止めるように言います。しかし猟師は震えながら言い返しました。村の羊を襲われては村人は暮らしていけない、自分が食べられてしまっても別の猟師が来るだろう、と。

 どっこいそんなら話は簡単です。カリーネは猟師に兄様を紹介し、兄様がオオカミたちを説得すると約束します。兄様は群のオオカミたちに、羊はヒトが狩るために育てている獲物であり、オオカミは誰かの獲物を横取りするような卑怯な真似はしない、と言って村の羊を襲わないよう言って聞かせます。

 オオカミの長は村の羊を食べてしまったことを素直に詫び、償いと誓いの証として自分の牙を一本、猟師に差し出しました。猟師は不思議と、オオカミたちやカリーネが言うことを疑う気になれず、二度とオオカミ狩りに来ない事を誓い、オオカミの長と同じように柄に光る石のついたナイフを一本差し出します。オオカミの長は牙の欠けた口でそれを受け取ると、仲間達と森の奥へ帰って行きました。

 猟師はカリーネに御礼を言い、村に住んでもらえないかとお願いします。カリーネは兄様と顔を見合わせ、申し訳なさそうに笑ってこれを断ると、猟師に別れを告げて森を後にしました。

 そうしてカリーネは再び“新しいお家”を探して旅立ちます。兄様と話し合い、今度は暖かい南へ向かうことにしました。そして最後に森を振り返り、オオカミたちへ大きな声で別れの挨拶をしました。

 森の奥から応えて響く幾重もの遠吠えに送り出され、ふたりはまた歩き出すのでした。


出典:『カリーネ、猟師とオオカミに会う』(さる小国に伝わる童話『お家探しのオオカミ兄妹』の一編)

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