48話

「お前たちはウジ虫以下だ! 失敗は許されんぞー!」


 ダレスは特訓を受けて二時間が経過した。地面に這いつくばるようにうつ伏せで進み、それが終わると、今度は校庭でランニングをさせられていた。


「ヒッ―――! なんでこうなるのー!」

「つか……れた……」


 背後には、エリスとススムは苦しそうな表情をした顔で、息切れを吐くように走り、二人はノロノロとクタクタな疲労感を溢れる。

 あの二人、インドア派で運動不足に違いない。


「二人共! 何トロトロと走っているんだー! 気合い入れろ気合い!」

「ヒィィ―――!」

「ヒィ、ハアハア」


 腕を振るダレスは、遅く走るエリスとススムを怒号を上げて説教する。


「オオウチを見ろ! アイツだけは元気に走っているんだぞ!」


 ダレスが僕の方へ指を刺し、疲れ果てるエリスとススムは汗を掻くように僕を直視する。


「そう……で…すか……?」

「疲れ……な……いの……?」


 そのオオウチは、全速力で腕を振るように元気よく走っている。少し息が苦しいけど、有酸素運動なら何度でも受けている。


「アイツ……元気に走っているな。何十周も走っているじゃないか!」


 エリスとススムはポカンとした表情で自分を見る。


「そうですね」

「彼は運動出来るには見えないですね」

「私も同意ですわ」

「俺も」

(丸聞こえだよ)


 一応言いたい気分だけど、僕の容姿の見た目は、身長が小柄なチビ体型だ。でも、体力自慢で運動神経抜群だよ。

 オタクの僕がどうしてそんなに運動が出来るのか。


(お師匠様も鍛えた影響かな?)


 礼の事件で両親を失い、友人であるこのソーラー学園の教師を務めたお師匠様のアルのおかげだ。一緒にいた頃、僕は彼女の地獄の特訓を続けられて、僕は死ぬほど苦労した。物凄くデカい大岩を背負いながら腕立て伏せ、数十怪建てのビルみたいな崖上り、散々酷い目に合わされた。


(お師匠様はどうしているかな?)


 エリスら率いるソーラー学園の連中が連れだす入学直後、お師匠様が僕を殴って気絶させ、その直後に一瞬で夜逃げのように何処かへ蒸発してしまった。しかも巨額な預金とマネーカードをいつの間に用意してくれるとは、どうして僕を置いて行ったんだ。


「ようし! ヨシノを見習って、お前らも早く特訓を続けろー!」

「ヒィ―――ン!!」

「ヒエ――――!」


 急いでヘトヘトにするように走り続けるエリスとススム、気合の声を上げて応援するダレス。あの二人には大変だけど、一週間に向けて特訓だ。後の辛抱のところだよ。


(一週間後……アイツらに勝たないといけないな)


 対戦の日まで一週間後。だから僕とヘロヘロと後を追いかけるエリスとススム、僕が身勝手な行動を起こしたからだ。


「みんな頑張っているね」

「本当だね?」

「本気でやる気だ」

「うん……」

「オオウチ君! 無茶はしないでー!」


 耳元から声が聞こえた。そっちに振り替えると、何人かの男女の生徒がこちらを見ていた。同じ五組のクラスメイト達だ。委員長のシデハラ、前と同じ学園に通ったシアも、転校早々に新しいクラスメイト達に応援してくれるとはありがたい。


「やっぱり、噂は本当だったんですね」

「ええ、やはりあの二人も一緒ですか?」

(あ……あいつらも一緒か……)


 僕は以前、前に住んでいた町で、エリスと行動した二人の男女の下級生も応援していた。

 右はアリス星人の男子生徒、左はプルート星人の女子生徒の二人組だ。


「二人共……どうしてここにいるんですかー!」


 エリスは同じアースラー教の信者であるアンジロウとサリアに気づき、仰天した顔で、エリスは二人の元へ元気よく駆け付ける。あんなにガクガクと疲れ果てていたのに、あんなに元気なら特訓をちゃんと受けてくれよ。


「コラッ―ッ! 何処に行くんだー!」


 ダレスは、エリスがアッチへ行くのを目にして、怒号を上げるようにエリスの方へ追いかける。


(大丈夫かな?)


 僕は心の底からエリスを心配する。





 疲れるように特訓を受ける羽目になった私は、校庭をランニングの最中に、向こうから五組のクラスメイト達の生徒らが、元気よく私達を応援してくれるのは感謝したいですけど、それから隣には下級生らしい男女の二人組もいた。

 しかも、サリアとアンジロウの二人組だ。


「アンジロウとサリア! どうしてここにいるんですか?」


 私は、同じアースラー教の信者であるアンジロウとサリアの元へ掛けて近づくと、二人共ビックリした顔で、接近した私の顔を直視する。


「エリス先輩! なんでこっちに来るんですか!」

「特訓の最中ですよ。早く戻らないと」

「だってみなさんがここにいるのを、気になりましたから」

「気にし過ぎですよ」


 苦笑いをする二人、どうして私達が特訓しているのを気づいていたのかしら、ここでは誰も知られてはいないはずでは……。


「二人がどうしてここにいるんですか?」

「それはですね、エリス先輩……対戦を申し込んだと耳にしましたから」

「はい?」

「先輩が来週に向けて、ここの校庭で特訓しているのを気づいて、ここに来ました」

「どうしてそれが?」


 アンジロウとサリアが、どうして今日の実技授業の問題と、先生が勝手に対戦の事まで知っていらっしゃるのかしら、一体誰がこんなデマを知っているのですか。


「学園構内ネットのサイトで、掲示板の書き込みを見たからです」

「え……?」

「これを見てください」


 サリアは細いフレームのソーラー・グラスで、学内ネットワークを開き、掲示板をクリックして、私も自分のソーラー・グラスを表示し、学園サイト内の掲示板をタップした。

 そこにはとんでもない構成されていた文章と、今日の実技の出来事が掲示板に記載されて、凄く書き込みをされていた。


・今日の五組と四組の生徒の喧嘩けんか騒ぎを見かけた。

・五組の生徒を絡んでいるところを止めにかかったら、いきなりブチ切れて

・五組のハーフの男子って転校生だろう? いきなり割り込んだだろう?

・知ってる。

・四組の三人組は色付きレンズは余程のワルでしょう。五組の生徒オワッタ。

・いきなり対戦で決められたよ! 五組オワッタ!

・先生が決めた問題だろう。

・写真を見てよ。右は五組、左は四組……


……などということに。

 今日の実技で問題を起きた出来事が、何者かによって書き込みをされていた。もちろん、写真や動画も付けられて……


「落ち着いてくださいエリス先輩! 僕に言われましても!」

「今すぐその掲示板を書いた輩はどちらですの! まさか私のクラスメイトでしょうか!? これを書いたことを正直に話しなさい! 天罰を下しますわ!」

「先輩! そんなに怒っても何も解決できません! 個人情報は保護される保証ほしょうですよ!」

「私たちの個人的な情報を保護してくださーい!」


 バタバタと暴れ出すエリス先輩は、隣にいるアンジロウの胸を掴まれる。アンジロウは苦しそうな顔で目がグルグルと失神する。


「コラーエリス! 脱走は許されんぞー!」

「ヒャア!?」


 突然、背中の服が掴まれ、背後を振り向くと、私は一瞬で畏怖いふした顔で驚愕し、目の前には苛立つように汗っかきしているダレス君の姿だ。


「貴様……勝手な行動は許さんぞ!」

「ダ……ダレス君……」


 ダレス先輩は怒鳴るようにエリス先輩を掴み、逮捕するように連れて行かれる。


「全く” 世話の焼ける奴だな!」

「あ~れ~! 助けてくださーい!」


 バタバタと暴れ出すように、サリアとアンジロウに助けを求めたが……


「頑張ってくださーい!」

「応援して」

「裏切り者~!」

「行くぞ!」


 私は後輩に見捨てられてショックを受けて、悲しむように泣き叫びながら問答無用でダレス君に連行された。





 特訓開始から何時間が経過して、ようやく一日目が終了した。


「よーし! 今日はこれぐらいにしてやるか」

「はーい」

「は……い……」

「ヒィヒィ……ハァハァ……」


 疲れ果てているエリスとススムは、グッタリとしながらフラフラと腰を抜かすように倒れ込む。それに僕は平気だけど、二人には運動不足で疲れるのは当たり前。


「明日の放課後、また特訓するから覚悟しろよ!」

「ヒィィィ!!」

「またなの~!」

「当たり前だ! 特訓の当日まで一週間だ! お前らには勝利あるのみ! それが無理ならウジ虫だ!」

「ヒエエエエンン!!」


 再び泣き叫ぶエリス。ダレスの言う通り、あいつらを倒さなければならない。こんな目にした僕にも責任で反省しないといけないな。


「解散!」


 ダレスは号令を上げて、この場から離れるように退散し、周囲にいる五組のクラスメイト達も、急いで自分たちの寮に戻って行った。


「疲れましたわ……」


 みんなが帰った後、校庭に残されたのは、僕とエリスやススムの三人だけだ。僕は立ち上がって、エリスのところへ近づく。


「ほらエリス、さっさと寮に戻ろうよ」

「はい……」


 寮の門限時間が間近になる前に早く戻らないと、僕は疲れ果てているエリスの手を掴み、足を震えながら立ち上がった。


「じゃあ……僕もこれで」


 その隣にいるススムも立ち上がって、自分の寮へ戻ろうとした。


「それにススムは何処の寮なんだ?」


 テヅカの居候いそうろうしている寮の事を口にした。


「2号館だけど?」

「2号館!」

「何驚いているのですか!」


 テヅカの寮は、僕とエリスと同じ2号館に住んでいたとは、これなら一緒に帰れそうだ。


「僕も同じだけど」

「君も?」

「ああ……」


 テヅカも少しは驚き、同じ寮だとは思わなかったのだろうか。


「一緒の寮だとは知らなかった」

「僕もだよ」

「まあ……同じ2号館なら、一緒に帰宅出来るね」

「そうだね」


 同じ学生寮がくせいりょうの入居者なら安心だ。


「なら一緒に帰ろうぜ」

「うん」

「それはいいですわね」

「そうだなエリス。早く2号館へ戻ろうぜ」


 僕は、エリスやテヅカと一緒に、学園の寮へと戻った。








 









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ソーラー・イン・グラス 〜修道女に眼鏡を渡されて掛けたら適合が一致して転校した僕!〜 三太 @sugoi

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