40話

 二時限目の授業が終えてクラス全員先生に礼を言う。


「実技授業って……何をするんだ?」

「そうか、お前は実技授業が初体験なのか」


 ソーラー学園の実技授業は一度習った事がないので、仕方なくクラスメイト男子のダレスに話かける。

 昨日からソーラー学園に転校したばかりの僕に、初めての実技授業に参加することが出来る。


「場所は分かっているのか?」

「体育館ドームだろう?」

「よくわかってるじゃねえか」

「昨日……エリスの案内で」


 先日の放課後、エリスが案内した体育館ドーム内で、ソーラー・グラスの能力や武器のどれだけ強化なのか判断する訓練所、強いか弱いか偏差値へんさちが付けられる。

 昨日の見学で、訓練する生徒たちの練習をとても頑張っていたよな。


「それに運動着は?」

「前の授業が始まる前に、エリスが届けてくれたよ」

「マジか……羨ましい……クソー!」

「オイオイダレス、どうして悔しがるんだよ」


 ダレスは歯をギリギリとしながら悔しがる表情をする。


「実技の授業には、ソーラー・グラスの適合者の体力測定みたいなものだろう。練習対戦したりするんだよ」

「練習対戦?」

「バトルみたいなものだろう。シングルやダブルの対戦が選べるだろう」


 まるで対戦ゲームじゃないか。まさか現実的な要素で存在するとは、実技授業を学ぶつもりなのか。ソーラー学園の勉学を舐めているじゃないか。


「ダブルって二人対戦も出来るのか?」

「そうだけど……」

「ダレス?」


 対戦の実技を話したところ、ダレスの態度は様変わり、地面を見ながら下を向くように、沈黙しながら落ち込んでしまう。


「どうしても……俺は何も……」

「ダレス!?」


 いきなり泣き始めたよダレス。顔は鼻水を出しながら悔し泣きをした。


「どうせ俺は……振られてばかりだ」

「……」


 何かわかる気がする。どうやらダレスは、実技授業を対戦に付き合ってくれる女の子がいなかったのか。涙をポロポロと啼泣ていきゅうするダレス。僕はダレスに肩をポンと叩く。


「そんなに泣くなよダレス」

「お前……わかってくれるのか……ヒグッ」

「わかるよ」

「ヨシノ、お前って奴はー」


 ダレスは泣きべそをかきながら、僕に抱き着こうとしたら、


「気持ち悪い!」


 僕は襲い掛かってくるダレスを交わした。


「避けられた!」


 男とハグなんて出来る訳がない。ダレスは再び泣き出してしまう。


「じゃあ僕は先に、更衣室に行くから」

「おうよ」


 早く体育館ドームへ向かおうと、ダレスは一瞬で泣き止んだ。


「じゃあまた後でな」

「わかった」


 教室に出て、運動着を担いで体育館ドームへと向かった。





「更衣室は地下室だよな」


 ドームの中に入ると、入り口の案内図で更衣室を探した。場所は地下一階だ。階段で下を下った。

 地下一階の辺りは少し暗くて、僕は周りを見て、更衣室を探した。


「場所はえ~と……ここだ」


 右の角に向くと、あそこから男女別の更衣室のデジタル式の標識灯が照らしている。


「男子更衣室は……左だな」


 更衣室の標識灯に近づいて確認すると、右は赤色の照明が女子更衣室、青色の照明が男子更衣室だ。


「見ればわかるよな。男子更衣室は左だな、さっさと着替えて準備しないと」


 左方向へと曲がって、男子更衣室に入室した。

 そう思った中で、地下室にいたのはヨシノだけではなかった。向こうの立ち入り禁止の文字が書かれたドアが開き、そこから中年の男が出て来た。


「フイー……全く困ったものだぜぇ」

 

 その中年男性は、ソーラー学園の体育館ドームの作業しに、わざわざ車でトーエから来た電気屋の修理作業員だ。

 どうやら彼は、地下一階の誤作動の点検作業を終えたところだ。


「全くあのバカは、ケーブルを通すところを間違えるとは、困った奴だな……アイツ給料を半分にしてやる。もしも男子が女子更衣室に、もしくは女子が男子更衣室に入ったらハプニングになっちまうところだったな」


 昨日の地下一階の修復作業を行った作業員が、更衣室の標識灯のデジタル式照明を間違えて繋げてしまった。彼が変わりに、電気線を元通りにした。戻すのに時間が掛かった。

 男女別の更衣室の標識灯の照明が、左は女子更衣室、右は男子更衣室へと変わった。

 そう……ヨシノが間違えて女子更衣室に入ってしまった事を気づかず……。





「相変わらず……少し雑な感じなしているところもあるなあ」


 更衣室に入った直後、ヨシノは奥のロッカーを使用し、制服をに脱ぎはじめ、白いシャツとブリーフパンツの下着一丁の姿で、袋から運動着を取り出した。

 その運動着の特徴は、全身タイツに近いラバースーツで、色は黒く染めて、黄色いバツ印が目立っている。


「そう思いながら着てみましょうか」


 その運動着タイツを着用し、奥のロッカーの隣にある鏡で自分の姿を見たところ、タイツ姿のヨシノはちょっとした変わった運動着を着るのは初めてだ。


「ちょっと変だな……」


 ソーラー学園の生徒は変な服で実技を受けているのか。

 まるで盗人ぬすっとと呼ばれる≪怪盗≫と≪泥棒≫になりきったみたいな感じだ。脱いだ制服をロッカーに仕舞って、ちゃんとロッカーの戸を閉める。


「さてと、早く出るとしますか」


 更衣室へ出ようとしたその時、


『ねえねえ、今日の実技なんだろうね』

『さあ……』

(女の子の声が聞こえる?)


 更衣室の出入り口のドアの向こうから女子の声が聞こえた。


(どういうことだ……女子更衣室はあっちなのに、なんで男子更衣室の前にいるんだ?)


 ここは男子更衣室なのに女子がいるなんて、もしかしたら男子の友人と会話でもしているのかな。


『昨日ここの地下一階の男子更衣室と女子更衣室の標識灯の照明の色』

『二つとも電気線の繋がりを間違えるなんて……本当にドジだね』

『もしも、私達が男子更衣室に入ったら、危ない所だよね』

(間違い!?)


 それってつまり、僕がいるのは女子更衣室なのか、とんでもない事態を起こってしまった。

 このままだとマズイことになる。女子が入ってきたら、僕が女子更衣室の侵入者あるいは変態扱いにされるかもしれない。〝女子更衣室に侵入した変態男子〟にレッテルを貼られるかもしれない。

 学園の停学や退学じゃあ済ませず、警察佐田になるかも。


(マズイ! 早くここから出ないと! でも……)


 出入口はこのドアだけだ地下室には窓なんてあるわけがない。それに天井に設置してる換気口かんきこうも小さくて体が入らない。


(落ち着け……落ち着けよ僕……何か隠れる場所があるはずだ)


 周囲にある女子更衣室を見回すと、隠れる場所なんて何処にも見つからない。かくなる上は……




「それでね、今日の実技はなんだろうね」

「あの先生は苦手だね」

「そうね」

「私も」


 女子更衣室のドアが開き、数々の女子生徒が入室してきた。

 ドアをすぐに閉めて、彼女たちは女子制服を脱ぎはじめ、運動着に着替え始めた。


「それにエリスさん、今日も問題を起こさないでね」


 シスター・リンは、またもやエリスに注意を言った。


「なんですか! 私を邪険扱いは止めてくださいリンさん!」

「まあまあ二人とも」


 アースラー教の信者のシスター・リンと、彼女と同じ信者でギャーギャーと騒ぎ出す黒髪ロングヘア―のトレードマークであるシスター・エリスを止めにかかるシデハラ、


「全くあなたって人は~、どうしてそんなに悪口を言うんですか」

「正直に話しただけです」

「ちょっと、少しは状況を考えて」


 リンはちょっとした本当の事を正直に話す癖が多く。説教とはいえ言いたい放題だ。


「それに早く着替えた方がいいじゃないの?」


 周囲にいる女子生徒は、ブラジャーやパンツなどの下着姿で運動着を取り出したり、もう既に運動着を着替え終わっている女子もいる。


「そうですわね、急いで着替えないといけませんわね」


 今日はヨシノの初実技授業ですわ。色々な事を襲わないといけませんわ。


(ロッカーが空いてるところは……何処も見つかりませんわ)


 他の女子生徒は着替え終わった後、制服をロッカーに仕舞い、ソーラー・グラスでロッカーの戸をロックした。

 制服盗難防止の為ですわ。


(ロッカーは……またいつものですわね)


 仕方なく、私が毎日使用している更衣室の一番奥のロッカーを使用する。

 一番奥のロッカーの前に立って、戸を開いた。

 その時、エリスは急に慌てて、ロッカーの戸を素早く閉め、額に脂汗をくように、平気じゃなそうな顔をしてしまう。


「どうしましたかエリスさん?」

「いいえ!」


 エリスの異変に気付いたシアは、気になる顔でエリスに近づいてくる。


「何か隠しているでしょう?」

「隠していません!」


 エリスは後ろでロッカーをしがみつき、シアに小声で否定する。


「見せなさい!」

「ちょっと!?」


 一番奥のロッカーを確認すると、エリスは抵抗したが、あっけなく突き飛ばすように退かされる。シアはそのロッカーを開くと、中を覗いた直後に素早くロッカーの戸を音が響くように閉めてしまう。


「どうしたのですか?」

「ロッカーの中に何が?」


 他の女子生徒達は二人の反応をビックリして、心配して近づいてくると、


「大丈夫ですわ、少し汚れていますので」

「そうそう、物凄く汚くて驚いただけですの」


 二人は平然じゃなそうな顔で、私達を説得する。


「そうかしら?」

「女子更衣室のロッカーに酷い汚れなんて……聞いた事もない」


 女子更衣室を使用する女子生徒は全員キチンと清潔せいけつ感をしていて、誰もロッカーを汚す女子は一人もいない。


「私達は大丈夫ですので、みなさんは先に行ってください」

「そうそう、私も残るから安心して」


 エリスとシアは苦笑いな表情で、あせるように背後でロッカーをくっつく。


「でも……」

「大丈夫なのかしら?」


 着替え終わった運動着姿の女子たちは、まだ、着替え終わっていない制服姿のエリスとシアは、そのままロッカーにしがみつく。


「わかった。じゃあ先に出るけど」

「着替えたら、ちゃんと戸締りしてね」

「遅れないでね」

「「はい!」」


 女子生徒達は心配しながら更衣室から出て行った。残されたエリスとシアは、全員が出て行った直後に一安心してホッとする。


「行きましたわ」

「ええ、危ないところでしたね」


 ロッカーから離れるように振り向くと、ロッカーに向けて声をかけた。


「みなさんは行きましたわ。もう出て来てもいいですわよー」


 ロッカーがガタガタと揺れながらゆっくりと戸が開いた。


「た……助かった……」

「びっくりして驚いたわ」

「なんで女子更衣室でロッカーの中に逃げ込む輩は誰でしょうね……ヨシノ」


 そう……ロッカーから出て来たのは、赤毛と白髪の小柄な男子生徒の姿を現す。


「済まない……エリス」


 私の知る運動着姿の男子は、恥ずかしそうな顔をして出てくるヨシノ・オオウチ。






















 


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