36話

「やっと撒きましたわ」

「逃げ切ったな」


 僕はエリスと共に、2号館の学生寮の男子生徒に追いかけられて逃げ延びた。


「ちょっとヨシノ! あんな逃げ方はないでしょう!」

「何が?」

「いきなり二階に飛び降りるのは、ハード過ぎるですわ!」

「仕方ないだろう!」


 後の話だと、エレベーターに乗車して、部屋に戻ってカバンを取りに戻り、学校に急ごうとしたら、玄関から男子たちに囲まれ、出られない状態だ。

 最後の手段に、エリスをお姫様抱っこをして、向かった先は窓だ。一か八かガンブルのように、一斉に飛び降りた。

 無事に足がしびれる程、地面に着地して、エリスをお姫様抱っこのままで逃げ出した。


「いつまでお姫様抱っこしていますの?」

「おっと、いけね」


 まだエリスをお姫様抱っこをしていた。僕はゆっくりと彼女を下ろす。


「全く、どうしてこんな目に合わなければいけませんの?」

「お前のせいだろう!」

「どうして!」


 エリスは〝ガーン〟とした衝撃的にショックする。


「何故私のせいですか!?」

「お前が余計な事を言うのがいけないんだぞ!」

「どうしてですか?」

「一緒の部屋の事は、誰にも言わないよう内緒にしたのに、結局話しただろう」

「ギクッ! なんのことでしょうか……」

「知らない振りは止めろ!」


 エリスは忘れた振りした顔で、冷や汗を流してしまう。エリスが前に住んでいた2号館の三階の女子専用が、修復作業の為に使われなくなり、直るまで一週間はかかる。

 2号館に住む女子たちは全員、友人あるいは他の女子寮を使用し、エリスは特別に二階の男子専用の部屋に、全部あのバカ巫女ロリ《理事長》のせいだ。

 僕が住む部屋に、エリスがいるだと知らずに……。


「だって、理不尽な男子達が通してくれないのがいけませんわ」

「どうするんだよ。帰りに2号館の入り口だ。部屋に戻りづらいだろう」

「そうですけど……」


 どうやってエリスと一緒に、2号館の学生寮の部屋に戻ればいいのか、帰りにまた男子に出くわしたら大変だ。

 状況を突破するには、結構大変になりそうだ。


「帰りは大変になりますわ」

「そうだね」

「それに、早く学園へ行きましょう。考えるのはその後ですわ」

「おおう」


 エリスと一緒に中等学園へ向かった。また考え直すのはその後だ。









「ヨシノ、上履きは?」

「ちゃんと靴箱にあるよ」


 靴箱の戸を手を触れて、ロックが解除して開く。上履きに手に持って、それに履き替えた。

 今日はソーラー学園で、新しい学園生活の始まりだ。


「……と思ったけど……やっぱり無理だわ」

「諦めるの早い!」


 初めてのソーラー・グラスの適合者になって、まだ心の準備を整えておらず、緊張感が溢れてしまう。


「ヨシノ! 落ち着いてください!」


 エリスは緊迫した顔で、不安に陥る僕を心配をかける。

 心配かけてくれる女の子が、生まれて初めてだ。


「昨日まで平気だったのに……なのにどうして?」


 昨日は転校初日で、ヘッチャラでケロッとしたのに、早く馴染めなくなってしまうとは。


「転校初日で、緊張する人たちはたくさんいますわ。私も含めて」

「お前もか!」


 エリスもソーラー学園の転校初日に緊張感していたのか、一体どれだけの適合者になった以上、余程怖いのか。誰か責任者呼んで来いよ。


「最初は緊張して怖かったですわ。今はもう大丈夫ですわ」

「嘘つけ!」

「本当です!」


 エリス……まさかお前は臆病なのか、それでさっきの2号館の食堂で、男子生徒が放った言葉『エリスは友達がいない』と思い出す。

 転校した直後、エリスは学園生活を大変苦労していたな。


「まあ、大変だったのは無理もない。けど、一つ問題が」

「問題?」

「もしものことだけど……一緒の同じ部屋に住んでいるって話しかけてきたら……」

「ええ……」


 周囲を見回すと、靴から上履きに履き替えている玄関口で、他の同級生、上級生と下級生などの生徒が、僕とエリスをじっと見て、何やら小声でヒソヒソ話をしている。

 

「ヤバい感じがする……」

「早く教室へ行きましょう!」


 他のクラスの中に、同じ2号館の人間がいたら、今朝の出来事がバレる。一刻も早く教室へと向かった。











 階段で三階に着くと、二年五組の教室のドアの前に立つと、新しいクラスメイト達を、どんな顔で会えばいいのかわからない。

 隣にいるエリスは、心配そうな顔で僕を見る。


「大丈夫ですわ、スマイルで挨拶」

「スマイル?」

「スマイルスマイル」

「スマイル……挨拶……」


 楽しい表情で挨拶を交わすのかよ。エリスのアドバイスは大丈夫だろうか。一応不安が感じる。

 仕方なくエリスの言う通り、スマイルで楽しい顔をした。


「どう?」

「うーん……苦笑いしているみたいですけど」

「駄目か」

「ならいいですわ」

「いいのかよ!」


 エリスが〝よい〟なら、大丈夫なのか、


「じゃあ教室へ入りましょう」

「わかったよ」


 大丈夫なのか、エリスはニコニコと嬉しそうな顔をして、二年五組の教室のドアが自動的に開いた。










「おはよう」

「おはようございます」


 教室の中に入ると、もう十数人以上の生徒がいた。

 前の机に座って授業の復習する生徒、後ろの席から何人かの女子が、ファッションとか化粧、好きな男子生徒を会話しながら女子トークをする。眠気が足りずに机で寝る生徒、自分とオタクらしい生徒がソーラー・グラスでゲームをしたり、その他の生徒が、色々と暇つぶししている。

 朝早く教室に辿り着いて、余程暇つぶしをしているよな。そういえば、ノグチの奴はいないよな。まだ寮で寝ているのか。


「机はエリスと隣だな」

「よくわかりましたわ」

「当たり前だ」

「早く座りましょう」

「わかった」


 自分の席は覚えている。椅子に着席し、カバンからデジタルペンなどのハイテクの筆記用具を取り出して、机の中に仕舞った。

 僕はソーラー・グラスに写し出す自分の〝学生証〟を、出席のボタンをタップした。


(なんだか暇だな……)


 HR《ホーム・ルーム》が始まる時間は、デジタル黒板の上の壁に設置しているデジタルウォッチを確認すると、数十分はかかるな。


「ソーラー・グラスでネットするか」


 僕も開始時間まで暇つぶしをしようと、ソーラー・グラスを起動した。

 ネットのマークをタップして、レンズを映し出すように、クリックしてネットを開く。

 情報や経済、外交などの星際関連など、今日のニュース広告が記載きさいされており、ソーラー・グラスは本当に便利だな。


「アニメの放送時間を確認でもするか」


 キーボードタップで僕がよく見ている好きなアニメ作品を検索しようとしたところ、何やら、嫌な予感がしてきた。


「おい……転校生」

「!?」

 

 誰かが自分の名前を呼ばれた気がした。

 気になって顔を上げると、何人かの男女のクラスメイトが、机を囲むようにしていた。


「ちょっといいかい」

「なんだ?」


 声をかけて来たのは、金髪のヴィーナス星人の男子生徒だ。

 彼は軍服らしい上着を羽織っていて、顔はイケメンで、金色の瞳に、ガッチリした身体で、180㎝近いに長身で、彼の掛けているのは黒いソーラーレンズをしたソーラー・グラスだ。

 一体僕に何か文句でも言いたそうな顔をしている。


「何か?」

「お前に話したい事がある」

「構わない」


 僕は無視する事が出来ず、仕方なくその軍服の男子に話しをした。


「お前……なんでエリスと一緒に同居って……本当か!」

「ばらされた!」


 どうやら、もう既に知られていた。後戻りが出来ない。


「どうしてそれを知っている!?」

「学園の掲示板で書かれたんだ」


 軍服の上着を羽織った男子の言ったことは本当かどうか、ネットで学園の掲示板サイトを検索けんさくして調べると、僕とエリスの〝2号館の男子専用の部屋で一緒に同居している〟ことも書かれていた。


(あの連中め……)


 2号館の学生寮の男子達が、ソーラー学園の掲示板で、僕とエリスの同居している掲示が書かれて、よくもバラしてくれたんだなアイツら……

 隣の席にいるエリスは、椅子をガタガタと揺れながら、畏怖いふした表情で、身体中震えていた。

 もうクラスメイトの連中、誰にも話し相手にしてくれないのかな。


「それに重大な話がある」

「なんでしょうか」


 まさかコイツ、僕を誰もいないところで袋タタキでも痛めつける気か、それとも喧嘩けんかで対決を挑んでいるのか。


「お前って……」

「……」

「なんで口うるさいボッチなシスターのエリスを普通に話しているんだ?」

「はい?」


 どうしてエリスの話しをしてきたのかアイツ……?


 




 





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