26話

 エレベーターで7階に辿り着く。本館マップで職員室のルートを辿った。現在地は、エレベーター付近のすぐ手前のそこだった。


「ここか……」


 青緑色をした引き戸みたいなドア、電子プレートから〝職員室〟と点滅するように表示していた。


「プレートに〝職員室〟と書かれている。でもどうやって開けば―」


 そういった途端とたん、職員室の引き戸型のドアは一瞬で開いた。


「ウワッ⁉ 開いた‼」


 人前に立つと一瞬で開く自動ドアだ。かなりハイテクな要素だ。僕は足を動かして職員室へと入室した。すると僕が入った直後、自動ドアは一瞬で閉める。かなり開閉方式で出来ている。

 職員室の中から見ると、教員専用の机が並べていた。スーツを着た教師と、ジャージを着た教師が百数十人以上もいた。職員室に訪れた僕を直視していた。


「失礼します。ソーラー学園に転校の挨拶に参りましたオオウチ・ヨシノです」


 僕は大声を上げて挨拶をした。


「君がオオウチ君かね? 待っていましたわ」

「はい……今日からこの学戦にお世話になる転校生のヨシノ・オオウチです。よろしくお願いします」


 最初に声を掛けられた若い女性教師に挨拶をした。僕は驚愕したのは彼女の着ている服装だ。

 紫色の小袖こそでと、赤茶色のはかまを珍しく着用している。

 本で読んだことがある。100年前の昔に女学生が着ていた服装である。

 それから束ねて赤毛のうなじの見える三つ編み風にポニーテールを髪型にしている。温和かで真面目そうな顔つきで、桃色の唇にとろっとした目つきをしている。右手に持っているのは、古めかしい本を手に持っていた。それから大きな黒ぶち丸眼鏡は、彼女もソーラー・グラスを掛けていた。


「私の名前はユキナ・フクザワです。あなたが転入するクラス担任の教師です。以後……お見知りおきを」

「あなたが転入するクラス担任の先生ですか」

「ええ、私の身分証明書でも確認してみましょうか?」

「はい」


 フクザワ先生は、自分のソーラー・グラスのテンプルをクイッとする。すると目の前のレンズ越しに、フクザワ先生の身分証明書が映し出された。


【ユキナ・フクザワ】 性別・女

 

 出身星・アリス星 出身国・ユートピア皇国

 職業・ソーラー学園中等部文理系担当教師、フクザワ保険会社取締社長、アリス星セントラルバンク取締会計係


 着用眼鏡ソーラー・グラス・ブラックセルラウンドフレーム

 能力・学問の鉄槌サイエンス

 武器・本魔術ブックマジック


 レンズ越しに映し出されているフクザワ先生の顔写真付きの身分証明書をしっかりと直視する。

 しかも、フクザワ先生の能力とぶきは かなり手ごわいな。自分の掛けているメガネフレームも記載されている。それに気になったのが……


「先生……一つだけ話したい事がありますけど」

「何か言いたいことがあるのね、いいわよ」

「職業に書かれている教師の他に、副業が多いですけど?」

「そうよ。君の言った通り私の副業ですよ」

「嘘⁉」

「本当よ」


 フクザワ先生はニッコリと口に一本指を近づき、右目をウィンクしながら僕に向けて微笑《ほほえ》む。

 彼女は教師の他にも副業が多い。保険会社の社長と、銀行の会計士、彼女はどれだけエリート過ぎるんだよ。

 フクザワ先生だけでなく、他の先生たちにも数々の仕事をこなしているのか。


「それから、あなたは学園に通うのに必要なものがあります」

「必要な物……?」

「それは、学生証です」

「学生証ですか?」

「ええ、ソーラー学園に通う子供たちには、学園生活で学生証を使用しなければいけません。例えば、授業の出席確認と、学生寮の部屋のロックキー、それから外出許可と、お店で確認できる身分証明書にもなれます」

「学園に通うのに学生証が必要ですか?」

「そうよ」


 学園に通う時に、出席確認と寮の鍵、外出をする時に許可を取る。学生証は生徒にとって一番大事だな。


「更に、外出中に出掛ける時、レストランで食事とお店で買い物をする生徒は特別に、お会計を済ませる時に学生証を確認して、料金を特別に半額サービスにしてくれます」

「サービス! 本当ですか⁉」

「本当よ」


 フクザワ先生はニヤリとした目で、僕は彼女の話を聞いた。しかもソーラー学園の学生証はどれだけ凄いんだ。レストランで食事したり、お店で買い物をする場合、お会計で料金を半額にしてくれるとは。まさかソーラー学園は特別な存在なのか。


「君の学生証は残念だけど、発行中ですので今は完成していないの。だから今日だけ特別にします。学生寮の部屋を管理人に報告して開けてもらいますので、そのつもりで」

「ありがとうございます」

「学生証は明日の朝礼開始直前にメールが届きます」

「わかりました」


 フクザワ先生は、ニッコリとした顔で僕の肩を軽く触れるように叩く。

 自分の学生証が届くのが、明朝で僕のソーラー・グラスでメールの送信するのか、今日から学生寮に暮らすのか、それから部屋の鍵を開けてくれるのは嬉しい。だけ特別にしてくれるのは。


「私の専門教諭は、文系と理系の両方共担当しているの。昔から色々な勉学を学んできたの。それからヴィーナス星立で有名校に留学した経験があるの。だから君もちゃんと授業を受けましょう」

「はい。授業ならちゃんと聞きます」

「しかし、君は前の学園で成績優秀よね?」

「はい。それは……その……」


 前の学園では、今までずっと授業には出ていなかったけど、中間・期末試験では、いつも上位として満点を取っていた。それは……彼女がいたおかげだ。


「ルビという女性に教育したおかげで……」

「やっぱり、ルビ先輩の弟子入りなら……言わなくてもわかるわよ」

「はい? 先生もおし―ルビ先生のお知り合いですか?」

「そうですけど、彼女は問題大アリで、ルビ先輩は学園の問題教師なの」

「はは……」


 フクザワ先生は、ため息を吐く。


「君も彼女の特訓を突き合わせただろう」

「はい……それで僕と出会う前、学園にいたルビ先生の授業は一体……」

「彼女が学園にいた頃ですか、ルビ先生の特訓をした生徒達のほとんど、全員酷い目合わされたんだよ」

「そっちも!」


 ソーラー学園で教育した生徒も被害者! 一体何を教えたんですか。


「ルビ先生は一体どういう授業を……?」

「確か……火あぶりとか、谷底綱渡りとかー」

「すみません! 説明しなくてもわかります‼」

「そう?」


 お師匠様、学園教師でも問題を起こしていたとは。被害に合った生徒達……実技と訓練などの授業をよく耐えられたね。

 そういえば、高等部風紀委員長のゼニガタ先輩も被害者だ。


「それからオオウチ君、ひとつ聞きたいことがあるわ」

「なんでしょうか?」

「君は元々……このアリス星の星都のトーエ出身だったよね?」

「そうですけど?」

「君は有名な資産家一族殺人事件を覚えているか?」

「えっ⁉」

「資産家・オオウチ一族の殺人事件、生き残ったのは子供達、つまりあなたもそうでしょう」

「……はい」


 フクザワ先生のするどい感覚、あまりにも思い出したくない事件を聞かされるとは、とても隠せない。彼女は教師のクセに推理力があるよな。


「ご家族が亡くなって以来、随分と苦労しましたよね?」

「いいえ、ルビ先生のおかげで大丈夫でしたので」

「そう……」


 フクザワ先生は心配そうな表情をする。彼女の言った通り、僕の家族が義理の弟殺された。僕の額にある傷跡が残っている。これも義理の弟のハルタに斬られて致命傷を負った。

 アイツは理由もなく一族を皆殺しにした。だけど僕を含む子供達だけは生き残った。あれは心が傷付くほど、トラウマのように畏怖を感じた。


「君の父親は実業家だったよね?」

「どうしてそれを?」

「先生は彼と何度か会ってるの」

「先生は僕の父さんのお知り合いですか?」

「ええ、何度も銀行とあなたのご自宅で、お会いになられましたわ」


 フクザワ先生が死んだ父さんの知り合い。まさか家族が生きていた頃に出会っていたのか。

 まさか転校先のソーラー学園に、新しいクラスの担任教師を務める彼女が父の知り合いなら安心だ。


「僕はまだ幼い子供でしたので、あまりにも覚えていません」

「そうよね、無理しても思い出さなくてもいいのよ」

「先生……」

「では、改めて言おうか、ソーラー学園へようこそオオウチ君」

「こちらこそ……よろしくお願いします」

「困った時があれば、私に相談してね」

「ありがとうございます。困った時だけですね」


 とてもいい先生だ。前の学園にいた頃とは違った。

 前の学園の教師は、僕を邪魔ものみたいにされて、嫉妬しっとや睨まれた教師が多くいた。

 僕は今までずっと授業に出ていなかったけれど、テストで満点を取っていた。それに仰天した教師は〝カンニング〟扱いとして疑われた。


「オオウチ君、HR《ホームルーム》が始まります。新しい教室へ行きましょう」

「はい」


 フクザワ先生と一緒に、中等部の校舎へ向かい、職員室へと退出した。








「ここが、中等部の校舎ですか?」

「そうよ」


 フクザワ先生と一緒に、中等部の校舎に到着した。

 中等部の外装は、古めかしい時計塔みたいな形、一番上の真ん中のてっぺんには赤い屋根と、現代風にアレンジした建物であった。どうやら学園風とイメージになってきたな。


「さあ、早く入りましょう」

「はい」


 フクザワ先生と共に、中等部校舎の入り口に入った。

 今日からヨシノ・オオウチの新しい学園生活の始まりだ。
















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