第13話
夏の嵐が過ぎ去り、戦いの残り香はそよ風と共に消えゆく。森の仲間たちが集まり、しめやかに、厳かに、葬儀が営まれている。
緑の布に包まれた遺体が、いくつも並んでいる。全て教会での戦いで散っていった者たちだ。ロビン・フッドが泣いている。一人一人の亡骸の元へと駆け寄り、その名前を呼び、功績を称え、感謝の言葉を告げる。
一つ、真っ赤な布に包まれた遺体のところに来ると、彼は一層大きな声で泣いた。
「『運命』って何なんだろうな」
小高い丘の上に四つの人影。タオは誰に言うでもなくつぶやく。
「オレは時々、こうやって出会いと別れを繰り返す日々について、ちょっとだけ考える。『調律』したら、仲良くなった人たちの記憶は全部消えちゃってさ……ただ単純に寂しいな、って。ここのみんなもオレたちのこと、もうなーんにも覚えてないんだよな」
「タオ兄……」
「ねえ、タオ」
レイナがタオを見上げながら、問いかける。
「あなた、この想区にやっぱり未練があるんでしょ」
「そんなのない。……ない。絶対ない。たぶんない。うん、ないぜ!」
「……未練ありまくりですね、タオ兄」
「全然ごまかせてないよ……」
「で、一応言っておくけれど……己の運命を決められる『空白の書』の持ち主は、他人の『運命』を変えることができる。この意味、わかるわよね、タオ」
「……なあ、お嬢、オレってそんな人間だと思われてるのか? 何もかも捨ててロビンの仲間になれってことか?」
「確認よ。悔いが残らないようにね。それに、ここにいるときの貴方、とってもキラキラしていたわよ」
タオは、うーん、と腕を伸ばして、
「この森、シャーウッドの森のことは、大好きだ。ロビン・フッドって言う最高の英雄がいてさ、最高の仲間たちがいてさ、最高の友情とか最高のロマンとか、そういうものが詰まってる。最高に素晴らしい場所だ。みんなオレのと一緒で、緑色の服を着てるしな」
懐に手を入れ、何かを弄ぶ。
「でも――ウィルじゃないけどさ、オレの『運命』はやっぱりオレだけのものであって欲しい。オレの『運命』はオレ自身で決めていきたい。オレは今、この想区に残らない、そう選択するぜ。まだ見ぬ想区がオレのことを待ってる、そう思う。
それにさ、この想区はやっぱりロビンたちのものなんだよな。オレはあいつらのこと、大好きだ。だから、だからこそ、あいつらから役を奪ったり、あるいは勝手に力を使って入り込んだり、そんなことできないぜ。それはロマンじゃない、と思う……上手く言えねーけどな」
持っていたスキルコアの破片を、手のひらに掲げる。粉々に砕け散ったスキルコア。その欠片は太陽の光を浴びるとさらに砕け、砂状になって消えていった。
「何よりさ、あっちはロビンの
ちょっとだけ真剣だったタオの顔に、笑みがこぼれる。みんな笑っている。いつものタオだ。いつものみんなだ。どこまで行くのかわからないけれど、四人はまた旅を続けていく。
「ってことで、タオ・ファミリー、次の想区へ向けて出発だ! 新たな冒険がオレたちを待ってるぜ!」
「だーかーらー、私をそこに加えるのはやめなさいって、いつも言ってるでしょ!」
シャーウッドの森は、あるべき姿に戻った。物語は『調律』された。
厄介事が終わった想区に、
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