グリムノーツ 〜おむすびころりんず〜

にぽっくめいきんぐ

01 『おむすびころりん』の想区

 ――自然豊かな、のどかな風景。延々と斜面が続いている。

 

「レイナ、ここはどんな想区なの?」

 エクスが尋ねた。


「ここは、おむすびの想区」

 レイナの答えはあっさりとしていた。


「おむすびの、想区?」

 エクスは驚いて二度聞きした。


「そう。ここは、おむすびころりんの想区」

 レイナは、より正確に表現した。


「おむすびが転がるってーのか?お嬢」

 タオが聞く。


「転がったおむすびが、穴に落ちてしまうの」

 と、レイナ。


「穴に落ちて、どうなるの?」

 聞くエクス。


「おじいさんが2人、続けざまに穴に落ちたり、つづらをもらったり、ひどい目にあったり」

 そう答えるレイナ。


「ざっくりしたまとめですね、姉御」

 シェインがさらりと言う。


「この想区のストーリーテラーは、運命の書にを埋めようとしたの」

「最初のおじいさんは偶然穴に落ちて、美味しい目を見るけど、それを真似しようとした2人目はひどい目にあうの」 

 レイナが解説する。


「真似しちゃダメなの?」

 エクスがさらに聞く。


「真似には権利者の許可がいるのよ。複製も翻案も」

 とレイナ。


「何の話です?姉御」

 とシェイン。


 ◆


 その想区は、北から南に向かって、下り坂になっていた。


 傾斜地ばかりで、家が建てにくい想区。


 おじいさんは山で木の枝を切っていた。


 昼食の時間。おじいさんはきりかぶに座り、おばあさんが握ってくれた、焼きおむすびの包みを開いた。


 その時、滑り落ちた1つのおむすび。


 山の斜面を、ころりん ころりん と転がり落ちていく。


 おじいさんは追いかける。


 しかし、おむすびは、木の根元に空いた、穴に落ちてしまった。


 おじいさんが穴を覗きこむと、何やら声が聞こえてくる。


 それが気になったおじいさんは、誤って穴に落ちてしまう。


 穴の中には、たくさんの白いねずみ。


 ねずみは、おむすびのお礼だと、大きいつづらと小さいつづらを差し出した。


 小さいつづらを選択するおじいさん。中には財宝。


 これを聞いた隣のおじいさんは、おむすびを穴に無理矢理入れた。


 そして自分から穴に入っていき、土産をよこせと怒鳴る。


 欲張りなおじいさんはねずみを脅し、大小両方のつづらを持って帰ろうとした。


 しかし、おじいさんはねずみに噛み付かれ、降参した。


 ◆


「欲張っちゃいけないってことかな」

 話を聞いたエクスが言う。


「相手の事を考えずに行動すると、痛い目を見る、とも言えるわね」

 レイナも言う。


「もらえるもんは全部もらうべきだぜ!めんどーだな」

 タオが豪快に言う。


「そうは問屋が卸さないって事なの」

 と、レイナ


「何の問屋なんだろうね」

 エクスが聞く。


「おむすびの、じゃないですか?」 

 シェインはさらりと言った。


 ――その時


 上の方から、焼きおむすびが、ころりん ころりん と転がって来た。


「北から来た!」

 タオは、それを見つけて指をさしながら言った。


「えっ?ってことは、おじいさんもその後ろから…」

 エクスは北の方向を見渡す。


「…追っかけてこないです」

 シェインが、冷静に言った。


「おかしいわ…おじいさんの運命の書には、『穴に落ちるおむすびを見届ける』ことが記されているはず」

 レイナが言う。


「見届けないと、穴の下にも落ちれないし、つづらも、もらえないから?」

 と、エクス。


「おじいさんは、この想区の『繰り返し』の中で、おむすびを見失わずに追いかける運命を背負っているはずなのよ」

 レイナが言う。


「過酷な運命だな!」

 タオが嘆息した。


「おじいさんは、走るのツライはずです」

 シェインが言う。


「毎回のおむすび追跡で、足腰が鍛えられているんじゃないかな?」

 と、エクス。


「「「それはない!」」」

 ハモる、レイナ、タオ、シェインの3人。


 そこに、ヴィランの群れが現れた。


「ヴィランが来たみたいね」

 と、レイナ。


「おむすびは転がるし、おじいさんは見つからないってのに…!」

 少し苛立たし気に、エクスが言う。


「例によって、ヴィランが邪魔しているんでしょう」

 シェインが言う。


「さっさとぶっ倒しちまおうぜ…!」

 タオが、威勢よく胸を叩いた。


 ◆


 ヴィラン。


 カオステラーの手によって、想区の住人が姿を変えた敵。



 行く手を阻むヴィランを排除し、カオステラーを倒し、


 そして、カオステラーを元のストーリーテラーへと、この想区自体を元の姿へと『調律』する。


 それが、『調律の巫女』である、レイナの使命。



 今、おむすびは、南に向かってころころと転がり続けている。


 それを追っているはずのおじいさんは、現れない。


 この世界が、カオステラーによって狂わされている事は、明らかだった。


 迫り来る、黒き異形のヴィラン達。


 しかし、レイナの一行の熟練は、ヴィランをして、彼女らを恐怖させることは出来なかった。


 敵の先頭集団に、タオとエクスが臆せず切り込む。


 彼らが持つのは、その者の人生全てが記された『運命の書』ではない。

 

 彼らが纏うのは、おとぎ話の「ヒーロー」達の力。


 ――白紙の『空白の書』を持つ彼らが、自らの運命を切り開くべく、借り受ける事が可能な力。


 タオの「ヒーロー」は槍と盾を。


 エクスの「ヒーロー」は片手剣を。


 それぞれ、その手に携えて、2人は斜面を駆け上がる。


 そして――激突。


「ええい!」

 エクスの「ヒーロー」の剣が、空中に半円を描く。


 シュン!斬りつけ ザシュッ!突き ブンッ!斬りつけ


 ヴィランが2体、あっという間に切り倒された。


 そこに、背後から近寄る、別のヴィラン。


「坊主、あぶねえ!」


 タオの「ヒーロー」が装備するのは、リーチの長い「槍」だ。


 タオは目の前の敵との先頭を一時中断。


 ダダダダダッ! ――疾走―― 


 ヴォンッ! 一閃 


 エクスを背後から襲おうとしていたヴィランを、横から突き倒す。


「タオ!ありがとう…!」

「気にすんなっ…って…、ほれ、次が来るぜ!」

「おーけー!」


 そして2人は再び散開。


 更に迫り来るヴィランたちを、突き崩し始めた。


 ◆


 タオが、エクスを助けるべく移動した為、戦力の空白地帯ができていた。


 その空間から進軍しようとする、敵のヴィラン達。


 バシュッ! バシュッ!


 シェインが纏う「ヒーロー」は、片手杖を装備していた。


 杖から、魔法の攻撃が飛ぶ。


 ヴィランに命中し、――そして爆ぜた。


「姉御、追撃おねがいします…!」

「わかったわ…!」


 調律の巫女、レイナが纏う「ヒーロー」が、魔導書を開く。


 ボワ!


 そこから、炎が生まれた。


 炎は急速に拡大。


 残ったヴィラン達が、炎に焼かれ、一掃される。


「姉御、さすがです…!」

「まかせて…!」


 4人の連携は息が合っていた。


 これまでの旅で、練度も上がっている。


 対するは、メガ・ヴィランも居ない敵の集団。


 …結果は自ずから明らか。


 戦闘開始からそれほど時間もかからず、レイナ達は、襲ってきたヴィラン達を撃退することに成功した。


 ――おむすびそっちのけで。


<続く>

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