贖罪の防衛線
「我々は邪悪に支配されていた国を立て直し、皆で手を取り合い生活をしていました。そこへ、今から三月半程前でしょうか。国の最北端の雪原に、突如として怪物の群れが現れたのです。奴らはまっすぐ南下して来ました。途中に何があろうとも破壊をして……」
王は静かに語り出した。
「魔王が送り込んでるんだな。でも、それなら、そいつらを避けておけばいいんじゃないか」
ハヤブサは言った。自分たちの道を阻むものを破壊するのであれば、そこを避ければ良いというのは当然の発想だった。しかし、王は首を振る。
「このまま、奴らを放置すれば、疾風の国をはじめとした、様々な国へ向かい破壊を始めるでしょう……それはできません。我々は防衛線を張り、この国から奴らを出さないよう、戦っているのです」
王の話を聞いて、勇者は考え込んだ。魔王が送り込んだ怪物たちをこの国で食い止めている。ただでさえ、立て直しに必死なはずのこの国がそんなことをするのか。
「他の国に助けを求めるべきでは?」
「我々は国であって、国ではない。先の勇者殿に解放してもらったとはいえ、もはやこの国は国とは認められていない。それに、我々には外に助けを呼ばない理由があります」
王は勇者の目を見た。
「その理由を話した時、貴方がたは我々を許してくれるでしょうか」
勇者は大きく頷いた。どんな理由かはわからないが、今聞いた話から、彼らを無下にはできない。
「例えどんな理由が現れたとしても、貴方たちは命を賭して世界を守っている。その事実は変わりません」
勇者の言葉を聞いた王は大きく目を開いて深々と頭を下げた。その様子を見たハヤブサが苦しそうに声を出した。
「……ここは、国を追い出されたり、いられなくなった人の集まりだろう。なら、どうしてそこまでして……」
「皆、どんな形であれ、罪を償うべきだと思っているのです。勇者殿たちに助けられ、生きていることの大切さを知り、自分たちが陽の目を見ることができないとわかりながらも、せめて代償を払う機会を、待っていたのかもしれません」
王は穏やかな表情をハヤブサに向けた。ハヤブサはその表情に負けて顔をそらす。
彼らがどのような理由でここに来るまでになったのか。そして、それらを清算しようと命をかける意味を、今の勇者にはすぐに飲み込むことはできなかった。しかし、自分のやるべきことは見えた。
「吹雪の王。我々は魔王城に向かいます。ですが、その途中にどうやら、その怪物たちがいるらしい。これは協力して一刻も早い解決をするしかありませんね」
勇者は王に手を差し出した。王はしばし、固まってこちらを眺めていたがゆっくりと手を握り返した。国を守るにふさわしい強く大きな手だった。
「なるほど。貴方のような勇者も、間違いなく……」
握手をしながら勇者は他の三人を見た。皆、勇者の提案に賛成する。
「最後の国にして、ようやくモンスターに会えるわけだ」
ハヤブサの皮肉に勇者は思わず笑った。
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