吹雪の国
集落に入った勇者らだったが、人は出迎えてはくれなかった。しかし、ブラッドとリリーが言うには「気配はある」らしい。
「気配消してるのもいるけれど、消せてない、戦い慣れしてない人の気配が家中からしてるわ」
「私たちの様子を伺っているようにも思えます」
勇者は二人の感想を聞きながら、寒いから早くどこかに入りたいと考えていた。
「我々は魔王を倒すべく旅をしている者だ。前回の勇者が苦戦していると聞き、援軍に来たと思ってくれていい。その証拠に、ここに例の女戦士がいるのが見えるはずだ」
勇者は吹雪に負けぬよう、大声で言った。
「例の女戦士ってなに」
「ブラちゃん知ってれば、大体それで通じるでしょ」
ブラッドが納得いかないと拗ねているところに、一人の男が現れた。分厚い外套と、獣の毛皮を体に巻いた弓装備の男だった。
「本当だ。おい、みんな! あの時の戦士さんだ!」
男の言葉を受け、多くの家屋から顔が出た。皆、男のように寒さを防ぐよう獣の毛皮を上着のようにしている。
「元気にしてたかしら」
「まあ、どうにかな。皆、外の世界には戻れないような連中ばかりだ、ここでどうにか生きるしかない」
男は破顔した。モンスターの統治が壊れたとしても、外の世界に戻れるわけではない。彼らは流れ着いた最後の土地として、この吹雪の国にいるのだから。
「ブラッド、さん。でしたか」
家屋から出て来た一人の老人が深々と頭を下げた。
「ええ。元気そうで少し安心したわ、吹雪の王」
ブラッドは笑う。他の三人はその老人に視線を向けた。王と呼ばれた男はどこにでもいるような優しげな顔をした老人だった。周りと服装の違いも見当たらない。その視線に気がついたのか、吹雪の王は照れたように笑った。
「はは、王にはとても見えないでしょうな。無理もありません。いまや、私は若い者たちに守られているただの年寄りに過ぎませんから」
「いえ、そんなことは。ただ、こんな国の入口でお会いできるとは思っていなかったもので」
勇者が頭を下げる。驚いたのは本当だったが、それとは別に、少し嫌な予感がした。
「ここも立派な国ですよ」
「……国の中心で、何か起きているのではないかと」
勇者が王を見ると、一瞬顔を歪めたのが見えた。
「さすが勇者、隠し事はできませんな」
「何があったの」
ブラッドは勇者よりも先に、王の言葉の先を促した。自分たちが解決したはずの問題に興味があるらしい。
「今はまだ、何も起こっていません。いえ、何も起こらないように我々は戦っているのです」
王は、王たる威厳を備えた眼を、勇者たちに向けた。
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