吊橋

 しばらく進み森を抜けると、大きな谷に掛かった吊橋が現れた。吊橋の先には大きな山が見える。

「す、すごい高いです」

 谷の底を覗いたリリーの声が上擦っている。

「途中で壊れたりしないよな」

「おい、勇者、そんなベタな展開あるわけねぇだろ」

 ハヤブサが笑う。リリーは吊橋を真剣な表情で睨みつけていた。

「かなり痛んでます。大丈夫でしょうか。利用者が少なくて整備がされていないのかもしれません……大丈夫でしょうか」

 リリーは震えた瞳で勇者の顔を見た。リリーの言う通り、ロープや足場の木の板はボロボロになっており、踏まなくても音が想像できた。

「ちょっと不安だ」

 勇者は素直な感想を述べた。リリーは何度も頷いている。

「大丈夫よ。仮にもし崩れたとしても、その瞬間に思い切り踏み込んでジャンプすれば」

「常人非推奨過ぎるから」

 勇者が苦笑いすると、ハヤブサが自慢げな表情を見せた。

「おや、もしや、勇者は高いところが駄目なのかなぁ? しょーがねぇなぁ、俺が手本を見せてやるよ」

「暗くて狭いのが駄目なお前に言われたくないな。高さじゃなくて安全性の話をしてるんだけど」

「感覚だよ。ぱぱぱっと走り抜ければいい」

 ハヤブサは吊橋から離れ、足の準備運動を始める。助走をつけて走り抜けるつもりらしい。

「ピィちゃん、かっこいいじゃない」

 ブラッドが焚きつけると、ハヤブサが親指を立てる。

「まあ、見てろよ」

 ハヤブサは勢い良く踏み出すと速度を上げて吊橋に踏み込んだ。

 バキ。

 まるでそこに木の板など存在していなかったようにハヤブサは落下した。勇者はそれを見て落とし穴とはあんな感じなのだろう。と一人納得していた。

「おおおおおあああああ!」

 ハヤブサの断末魔とガリガリガリと岩を削るような音が谷に響いた。

「ハヤブサさん!」

「それよりも吊橋が!」

 勇者はリリーの叫びを遮るように吊橋を指差した。

 ハヤブサが踏み込んだことにより吊橋は激しく揺れ、ロープが千切れて崩壊していく。吊橋は音を立てて谷に落ちていった。

「迂回しようか」

「うーん。他に谷を越えられたかしら」

「ハヤブサさん助けましょう!?」

 リリーに言われた勇者は谷を覗き込む。すると、谷の中程で両手でダガーを壁に突き刺してぶら下がっているハヤブサが見えた。どうやら、落下しながら壁にダガーを指して勢いを殺したらしい。初めの一歩で踏み抜いたのが幸いしたようだ。

「ピィちゃん、そのまま片方ずつ上に刺して戻ってくるのよ」

「助けろよ! てか、勇者お前、それよりも吊橋がって叫んでたよな、聞こえてたぞ!」

「ブラちゃん、悪いんだけどお願いしていい?」

 ブラッドは頷くと、勇者から剣を借り、谷へ飛び降りる。ハヤブサの少し下まで落下すると壁に剣を突き刺した後、腕の力で飛び上がり、剣の上に乗った。

「ピィちゃん、こっちまで飛んで、私の腕を踏みつけるのよ」

 ハヤブサはダガーを引き抜きながら、ブラッドの方へ飛び込んだ。ブラッドは腕を交差させ、ハヤブサはそこへ着地しようと落下する。

「せーので行くわ」

「え、待って、せーのって何?」

 ブラッドはハヤブサが自分の腕を踏みつけると、力強くハヤブサを真上に弾き飛ばした。再びハヤブサの断末魔が響く。

 勇者とリリーの視界にハヤブサが現れると、リリーが魔法を使いこちらに引き寄せた。

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