次なる場所へ
勇者らは適当な店に入り、食事を取りながら次の目的地を確認することにした。入った店は、不思議な植物を扱った店で、肉のような脂の乗った野菜を挟んだサンドイッチが売りだった。
「次は吹雪の国か」
ハヤブサが地図を広げた。
疾風の国の森を抜け、雪山を越えると吹雪の国がある。
吹雪の国は人を寄せ付けず、水鏡の国のように試練を越えたものを歓迎することもない。国一つで完結している。もっとも、この情報も商人仲間から聞いたものでしかない。
「ブラちゃん、どうなの、吹雪の国は」
「そうね。一つ言っておかないといけない」
「なんでしょうか」
「あの国はもう無いわ」
ブラッドはさらりと言った。他の三人は理解できずに固まるだけだった。
「どういう意味だよ、ブラッド」
「そのままの意味よ。もう国がないの。……吹雪の国はね、モンスターの国だったの」
ブラッドは運ばれてきたサンドイッチに手をつけた。「塩気が足りない」と呟く。
「元々はヒトがいたそうよ。けど、結構前にモンスターに攻め落とされ、乗っ取られたの。ヒトは奴隷や食糧として扱われ、モンスターが国を統治していたわ。王だけは生かされて、他の王たちとの会談に行かされていたみたいだけどね」
ブラッドの言葉を聞き、三人は口を開くことができなかった。勇者は思わず顔をしかめてしまう。辺境の地とはいえ、そんなことになっていたとは。しかし、考えてみれば、魔王の城に近いのだから怪物の統治下にあってもおかしくはなかった。
「なくなったっていうのはやっぱり?」
「ええ。私たちが皆殺しにしたからよ」
ブラッドは顔色一つ変えずに言った。そして皆が皿に手をつけない様子を見て「食べないの?」と首を傾げている。
「さすがに強かったけど、こっちが負けるはずがないから。残っていた元住民や王様は周りの小さな村に保護されたはずよ。復興するかは微妙だったけど」
「じゃあ、吹雪の国は通り過ぎるだけになるかもしれないんだな」
勇者が言うと、ブラッドが頷いた。彼女は説明終わり、と主張するかのように黙って食事を取り始める。
「前の勇者のことだから完全に根絶したんだろうな」
ハヤブサは苦笑いする。食欲がないのか気圧されたのか、ブラッドに自分の分のサンドイッチを取られても何も言わなかった。
「完全ではないだろ。どっちの生き残りが国に残ってるかだな。行かないことにはわからないけど」
「そこを抜ければ次は魔王の城ですね」
リリーが息を飲んだ。
「さっさと行って終わらせよう」
勇者は手を伸ばしてきたブラッドをはたき、自分の食事に噛り付いた。
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