鳥は吠える4
意識が戻る。ハヤブサは目を開けた。頭を強く打って気を失っていたらしい。後頭部にはまだ鈍い痛みが覆っていた。
あちこちが崩壊した室内。空いた穴からは外が見えている。
体を起こすと、目の前でリリーの背が見えた。相当疲弊しているのか、肩が激しく上下している。
「リリーちゃん!」
「……よかった! ごめんなさい、私を庇って……!」
リリーは険しい表情の隙間で笑顔を見せる。
「ああ、目が覚めてしまいましたか、寝ているうちに片付けたかったのに、お嬢さんがしぶとくて」
ローレンスは依然として飄々としていたが、息が上がっていた。リリーは男を睨みつける。
「すぐに輪切りにしてやる」
「もう、可愛いんだから、口は綺麗にしておいた方が良いですよ」
「黙れよ、今殺してやるからな」
リリーは吐き捨てると、魔法でローレンスに襲い掛かった。ローレンスは蛇を使い身を守る。
また守らせてしまった。ハヤブサは歯を食いしばった。試練の洞窟で仲間を守り酷い目にあったリリーに、自分は同じことをさせている。
それだけじゃない。俺は魔法使いに守られてばかりだった。ドラゴンにも助けてもらってばかりだった。兄貴顔をしておきながら、力は到底及ばない。
「ああ、くそ!」
ハヤブサは自分の頬を思い切り叩いた。今は落ち込む場合じゃない。まだ体は動く。ハヤブサは立ち上がり、リリーを抱え上げた。
「ごめんな、リリーちゃん」
「お互い様ですよ!」
「そうだな」
ハヤブサは蛇を見た。蛇は先ほどより細くなっている。
「燃費が悪いんですよ、そろそろ……よくないですね」
ローレンスは顔に浮かんだ汗を拭いながら言った。言葉に嘘はないらしく、蛇の動きも鈍っていた。
「女の子を抱えて逃げ回るだけですか?」
「んだと」
「安い挑発だな、それでも物売りか!」
リリーの怒鳴り声に、ハヤブサは乗り掛かった挑発から身を引いた。
「リリーちゃんの言う通りだ、もっとマシな言葉を持って来やがれ!」
「抱えてる側が金魚の糞」
「駄目だリリーちゃん、買いそう!」
「堪えてください! 我慢すればあっちが勝手に野垂れ死ぬだけです」
ハヤブサは室内を跳ね回り続けた。もはや蛇は大きなミミズにしか見えない。ローレンスもしゃがみこみ激しい呼吸を繰り返していた。短期決戦の魔法らしい。
そこへ、突如魔法陣が現れ、若い女が現れた。
「おい、どういうことだこれは?」
女はあからさまに不機嫌な声を出した。
「勇者様たちと消えた人です!」
リリーに言われてハヤブサは合点する。ここに来たということは、勇者に何かあったのか。ブラッドが付いていながらそんなことがあり得るのだろうか。
「すばしっこくてですね……」
ローレンスは蛇を消し、座り込んだ。
「もういい。後はやる」
「勇者たちはどうした?」
ハヤブサの問い掛けに、女は笑った。
「気になりマス? デワ、お見せしまショウ。原形が残っていれば良いのデスガ」
女は魔法陣を出した。その中心に穴が空き、別の景色が見え始める。
「行き先はモンスターハウス。瀕死の状態ではどうすることもできないでショウ」
魔法陣の穴は拳ほどになる。まだ向こうの様子は見えなかった。
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