鳥は吠える5

 突如激しい破裂音が三度響いた。同時に女が倒れこむ。ハヤブサはその破裂音に聞き覚えがあった。

「勇者」

 魔法陣に開いた小さな穴から、勇者の腕が飛び出している。その手にはいつもの短銃が握られていた。

「リリーちゃん、アレこじ開けてくれ」

 ハヤブサは魔法陣に駆け寄りながら言った。リリーが杖をかざすと、魔法陣は大きく口を開いた。

「ああ、まずいんじゃないんですか、これ」

 ローレンスは立ち上がり、蛇を出した。ハヤブサはリリーを降ろすと、ローレンスに突進する。

 最後の力を練り上げたのか、ローレンス自体は何も攻撃してこなかったが、蛇は大きく素早かった。ハヤブサは左右に跳びながら距離を縮めて行く。

「貴方が無理なら他を当たりますよ、ぼくは」

「させねぇよ」

 ハヤブサはうねる蛇の隙間を縫い、ダガーをローレンスに投げつけた。蛇男はリリーを捉えようとしていた為、ダガーが直撃する。

「あー、やだやだ」

 ハヤブサは空を仰ぎ呟くローレンスの背後に回り込むと、両手を相手の腰に回して仰け反るように投げ飛ばした。男は地面に頭を叩きつけられ動かなくなり、魔法の蛇は姿を消した。

「勝った……」

 ハヤブサは拳を突き上げ言葉にならない大声をあげた。リリーを見ると、笑顔で頷いている。

「やりましたね!」

 広がる魔法陣から、ブラッドを背負った勇者が現れた。体に大きな傷があるが、血は止まっているようだ。

「珍しいじゃねぇか、その二人で負けるなんてよ」

 ハヤブサは歩み寄る。勇者はまだ立っているが、ブラッドに至っては立つこともできないようだった。

「前の勇者が狂ってなきゃ、負けてたな……」

 勇者は苦笑いすると、ブラッドを降ろして座り込んだ。

「そっちも、大変だったみたいね」

 室内の状態を見たブラッドが弱々しく言った。

「あの女どうする、縛っとくか?」

 ハヤブサは銃撃を受けて倒れている女を示した。女は荒い呼吸で肩を揺らしている。

「いや、そいつは状況がわからないほど馬鹿じゃない」

 勇者が立ち上がろうとしたのでハヤブサは手を貸した。立ち上がった勇者は女に近づく。

「俺たちの勝ちだ」

「……殺すか?」

「いや、俺の趣味じゃない」

「降参だよ、やってられない」

 女は仰向けに横たわると、両手だけを上げた。

「あちこちの拠点がやられてるのも?」

「まあ、同盟みたいなものかな。向こうの奴らの命は保証できないけど……」

「ああ、そう……」

「俺たちは人さらいをやめさせに来ただけだ。もうやらないと誓うならこれ以上はしない」

「私がハイそうですか。と誓うような聖人に見えるか?」

「見えないけど、誓ってもらわないと困る」

 勇者の言葉に女は笑った。勇者が自力で立つと、ハヤブサは尻餅をつく。気が緩んだ途端、足腰に力が入らなくなった。俺の仕事は終わりだ、後はもう知らねえ。

「わかったよ。幹部より下は何も知らない本当の商人たちだ。彼らに任せて、本業は解体する。と言っても、すでに物理的には解体済みだがな」

「どうして魔王の力を?」

「貸しがあるのさ、魔王って呼ばれてるヤツには。こっちは貸した気なんてないんだが」

 女はそう言うと、語り出した。

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