ライラ
地図で教えてくれた場所は居住区の2ブロック程先だった。
「ショットくん、よかったな」
勇者が声を掛けるとハヤブサは頭を掻いた。
「やめろよ、その名前はもう使ってない。それに、もう大分時が経っちまったから実感がねぇよ。懐かしさはあったけどな」
「もっとこう、泣き崩れるくらいやってよかったのに。私たちがいたせい?」
ブラッドは笑いながらたずねた。
「お互い、もう別の道を歩いてたんだよ」
「なに格好つけてるのよ、似合わないわよ、ねぇ、リリーちゃん」
「え、いや、まあ、その、やっぱりちゃんと伝えないとご家族だって……」
「わかってるよ。これが片付いたらな」
ハヤブサの表情は少し寂しげに見えた。
仕方がないことだろう。ここで全てを投げ出して互いに喜べば、次にやってくるのは今まで目を逸らしていた過去への罪悪感だ。そんなものを互いに抱いて欲しくはない。だからこそ、この件を片付けなければならない。
ライラの住む家に着くと、ハヤブサの父親の言う通り、両親が顔を出した。父親はかなりガタイが良く、その視線の強さは背中に痺れを感じる程だった。勇者はどこかで感じたことのある視線だと思った。しかし思い出せない。
「誰だ」
「バレットの紹介できた。これを」
ハヤブサが手紙を渡す。ライラの父親は手紙とハヤブサを見比べる。次第に視線から刺すような強さが消えていく。
「君がバレットのせがれか。……昔、一度会ったことがあるんだ、覚えてないだろうが……」
ライラの父親は鬼のような顔を少し緩めた。警戒しているのかと思ったが、どうやらただの強面のようだ。
「俺たちは、あの人さらいどもを潰すために来た。あんたのところのライラさんと話をさせてくれ」
ハヤブサの言葉に両親は顔を見合わせていた。表情は明るくはない。
「私はシュラ。ライラの父親だ。とりあえず、上がってくれ」
シュラは勇者らを家に迎え入れた。彼の妻はすぐに部屋の奥に消え、人数分の水を持って来てくれた。
「ああ、お構いなく」
「ライラの為にも、ぜひ、奴らをどうにかして欲しい。私に出来ることなら何でもする」
シュラは頭を下げた。勇者は思わず身を引いてしまう。顔が怖いので圧が凄かった。
「はい。こちらもショット君と彼の家族の思いを晴らす為でもありますので全力で行います」
「そうだったな。今、妻がライラを連れて来る」
「ところでシュラさん、貴方とはどこかでお会いした記憶があるのですが……」
勇者はたずねた。この強面。誤って記憶しているとは思えなかった。
「? 失礼だが、私には記憶にないな……」
「そうですか。ライラさんはいつから?」
「一年ほど前だ。あの木こりの家で元気に明るく働いていたんだ。親馬鹿だと思うだろうが、愛想も良くて客からの評判も良かった。だが、急に様子がおかしくなったと思ったら家に閉じこもり、外に出ようとしない。何を聞いても教えてはくれない。部屋からは出て来てくれるから家族としてはまだ安心しているんだが……何よりも」
シュラは深呼吸をした。その瞳は先ほど同様の威圧感を宿していた。
「助けてくれ、守ってくれ。あの子は私にそう言ったんだ」
シュラは拳を握る。
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