意外な再会
母親がライラを連れて来た。ライラの髪は肩まで伸びていたが、手入れはされていた。しかし、目には光がなく、目だけを絶え間無く動かしていた。服装も仕方なく着ているというような寝間着のようなものだった。
「この人たちは大丈夫。二人目の勇者様なのよ」
「勇者……」
勇者はライラと目があった。そこで勇者は再び既視感を覚えた。
「どうされましたか。勇者様?」
勇者に気がついたリリーが声を掛けた。勇者はライラを見つめた。
「話すことはありません……」
ライラは小さく口を開いて音を出した。目はしきりに入口のドアや窓に向けられている。
「外に出ることを嫌がるんです」
母親がライラの肩を抱いた。ライラは人形のように母親に抱かれている。
「ごめんなさい、力にはなれません」
ライラは目を伏せた。勇者がたずねたのはまったく違う話だった。
「もしかして、村まで来たことがある? 勇者の出た村だ、そこまで船で商売しにさ」
勇者の言葉にライラは眉を動かした。シュラが代わりに答える。
「ある。私も護衛として同行した。数年前だが」
「やっぱりな。あの村の、大きな船を持っていた商人がいただろう、俺はあれの息子だ」
勇者は思い出した。木こりの家の者は何人か商売をしにやって来た。毎回顔触れが違ったが、彼女には見覚えがあった。初めての遠出だというので村を案内した記憶がある。どちらかといえば、父親の強面のおかげで印象に残っているのかもしれないが。
「あ!」
ライラは驚いたように口を開けた。その声の大きさに全員が驚いた。
「私に村を案内してくれて果物をくれた人だわ!」
ライラは笑顔を浮かべて勇者に近付いた。その笑顔に、勇者は見覚えがあった。間違いない。案内をした後、「静かで良い村ですね」と嫌味の感じ無い表情で言っていた女性だ。
「お久しぶりです! あの時はとても親切にしていただき、ありがとうございました」
「いえいえ。こちらこそ」
「まさか勇者になっているなんて、驚きです」
「それは俺もです」
勇者とライラのやり取りを見て、母親と父親が驚いた表情を見せていた。
「どうかしました?」
「あ。いや、なんでも無い。私も思い出したよ」
シュラはすぐにぎこちない笑顔を作って見せた。そんな両親には気付かずにライラは自身の格好を見て恥ずかしそうに笑った。
「せっかくの再会なのにこんな格好。ちょっと着替えて来ます」
ライラが席を立つと、母親が泣き崩れてしまう。突然のことに勇者たちは再び驚いた。
「あの子が、あんな風に笑うなんて……」
母親は手で顔を抑えて泣いている。シュラも同様に瞳を光らせ震えていた。
「あの子にとって、勇者さんの村は余程楽しい思い出のようだ」
「それはよかった。嫌なことを忘れてくれるなら、こちらからは無理には聞きません。今日は普通にお喋りをして帰ります」
勇者が言った。あの姿を見せられて無理に話は聞けそうにない。両親は黙って頭を下げた。
「俺の話もやめよう。人さらいなんて言葉は刺激的過ぎるからな」
ハヤブサが言う。話は聞けないと感じたのは勇者だけではないようだ。
「すみません、お待たせしました」
綺麗な服に着替えたライラがにこやかに戻り、勇者たちはにこやかに彼女を迎える。
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