一本の矢
探索を始めたのは夜だったが、太陽は完全に顔を出し、一日が始まっていた。
港町へ戻ると、勇者はナイトの拘束を解いた。
「何故?」
「もう必要がないだろ」
そこへ、リザードの仲間である町の警護団が駆け付けてくれた。そこにはリリーの姿もあったが、ブラッドはいなかった。
「とりあえず、治療を受けよう。もう医者も起きているはずだ」
リザードが言った。勇者は頷くと、リリーに声を掛けた。
「援護助かったよ」
勇者が近づくと、懐から精霊が飛び出しリリーの目に吸い込まれていった。
「いえ! 大した力になれずすみません……」
「そんなことはない。ブラちゃんは?」
「それが……私の魔法に続いて大きな木を投げたんですけど、その直後に倒れてしまって……ずっと眠っています」
「恐らくはレベルの低い魔法を浴び続けて調子を崩したのでしょう。彼女はどこですか? 私が見ましょう」
ナイトはリリーに声を掛けた。警戒するリリーに勇者は「大丈夫」と頷いた。
「それより、ナイト、あんたの怪我も」
「時間はかかりますが自力で治せます。お気遣いなく」
ナイトは頭を下げるとリリーを連れ立って歩いて行った。
「皆さん、怪我をされてますね、どうぞこちらへ」
治療を済ませた勇者とハヤブサはブラッドの元へ向かった。場所はこの港町に来た時に出会った勇者の知る商人の男が用意してくれた宿屋だった。
「宿を抑えて、君らを探したら警護の人たちに聞いてね。なんでも最近のモンスター騒動を片付けてくれたんだって?」
男は笑顔で勇者の肩を叩いた。
「消えた子供たちも何人かは帰ってきたし、さすが勇者だよ」
「……ありがとう。俺の仲間は?」
勇者らが部屋に入ると、ベッドに横になっているブラッドと、隣に腰掛けるリリー。離れたところで椅子に座るナイトがいた。
「調子は?」
勇者がナイトにたずねたが、返事はブラッド自身が答えた。
「まだ駄目ねぇ。ナイトとリリーちゃんに魔力で助けてもらったけど、もう少し寝てないといけないみたい」
勇者はブラッドに近づくと、そっと彼女の頬を撫でた。
「そっか。助けるのに時間掛かってごめん」
「いいのいいの。というか、ちょっと! そういうの照れくさいからやめてよね」
ブラッドは勇者の手を取るとゆっくりと頬から離した。それを見ていたナイトは不思議そうな顔をみせる。
「ブラッド。貴女もそのような顔をするのですね」
「悪い?」
「いえ。あの旅でもその顔を見ていたら……と、考えていました」
ナイトは穏やかな笑顔を見せた。そしてそのまま視線を落とした。
「私は勇者を、彼を助けたかった」
「勇者は救わなきゃいけないような状況なのか?」
ハヤブサの質問にナイトは首を振った。
「いいえ。救うだなんて烏滸がましい。私はね、彼を助けてあげたい。そう心のどこかで思っていたんだと思います。だから、彼から旅の離脱を告げられた時、決めたんです。私は彼の取りこぼしを片付けようとね」
ナイト矢筒から一本の矢を抜いた。
「私は勇者によって放たれた矢なんです。ならば私は刺さった先の獲物を仕留めるだけ。旅を遡り、小さな取りこぼしを片付けて来ました。その内に人さらいの話を聞き、ここへ来たんです」
ナイトは矢を弄びながら言った。その表情は憂いを帯びている。リリーは語気を強めて口を挟んだ。
「何故、今の勇者様を?」
リリーは明らかに敵意を見せていた。矢を受けた二人を見て警戒しているらしい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます