騎士
「魔力に覆われてわからなかったが、久し振りですね。野蛮人」
弓の男は馬車に声を掛けた。そして、先ほど、勇者たちに向けたように殺気を放った。男が勇者の方を見ていないにも関わらず、背中が痺れるように感じた。
その殺気に応えるように、馬車から一つの影が飛び出した。
「まあ。誰かと思えば騎士様じゃない」
飛び出したブラッドは勇者の前に立ち、弓の男を睨み付けた。勇者は騎士様という言葉に、前の勇者の仲間にエルフの弓使いがいると聞いたこと思い出した。
「久し振りね、ナイト」
「ブラッド……まさか貴女のような野蛮人が後進を育てているとは。私は今、少し驚いています」
ナイトと呼ばれた男は弓をしまい、小さく微笑んだ。しかし、ブラッドは戦闘態勢を解かない。
「逆よ逆。拾ってもらったの。……ところで、あなたがどうしてこんな所に? 私と一緒で、捨てられた?」
ブラッドはわざとらしくたずねた。ナイトは微笑みを崩さずに息を吐いた。
「貴女のように酷い傷があるように見えますか? 私は、私にできることを行う為に離脱したに過ぎません」
「年寄りの散歩には丁度良さそうな森ね」
「隠居するにはまだ早いと思っています」
勇者を置き去りにしていると気づいたブラッドがナイトを指差した。
「勇者の仲間よ、弓使いのエルフ。強さはさっき見た通り」
「離脱したというのは」
勇者の質問を、ナイトは手で制止させた。
「それよりも。まずはこの人さらい達の住処へ行くことが大切では?」
ナイトの主張は最もだったが、勇者としてはこの男と同じ空間にいるのは避けたかった。彼の情報がないということもあるが、ブラッドの警戒が解けないことも気に掛かっていた。魔力で拘束されていたからか、ブラッドの顔色が悪いように見える。
「まずは馬車の中だ」
「失礼しました」
勇者らが馬車を覗くと、五人の女が雑に横たわっていた。全員が深い眠りについているようで、何度声を掛けても返事はなかった。。
「あら、大丈夫そう?」
「誰かが馬車をぶち破ったからな」
「元からよ。ね? リリーちゃん」
ブラッドが溜息をつき、言った。リリーは真剣な顔で頷いた。
「はい。何かの力が使われているのは間違いないです。ただ……解く術が時間的なものなのか、術者次第なのかはわかりません……」
「このままにするのは良くないな。運ばせよう」
ハヤブサは指笛を鳴らし、獣のような声を上げた。すると、ハヤブサの前に先程のような大きな獣が数体現れた。
「あの気持ち悪い魔術師の所には戻れないだろうから、町の入り口まで戻ろう」
「ほう。獣使いですか。力でビーストを抑え込むブラッドよりもしっかりしていそうです」
「殴るわよ」
ブラッドは馬車の中の女を両手で抱えて獣に乗せた。
「魔法陣の出口でリザードさんを待たないと」
勇者がハヤブサに言った。首を傾げるブラッドにリザードを説明する。
「ブラちゃんとリリーちゃんは町へ戻ってくれ、俺とハヤブサはリザードさんと合流する」
勇者の言葉を聞いたブラッドが、勇者の耳元で呟く。
「言いたくないけど、戦力がバラけるわ、平気?」
「相当疲れてるだろ? 早く町に戻って休むべきだ」
ブラッドは小さく驚いた。勇者はそんな彼女の肩を優しく叩く。彼女は少し照れ臭そうに目を伏せている。
「さらわれた時、まったく気付かなかった。ごめん」
「リリーちゃんですら気が付かなかったんだもの。仕方ないわ。……たしかにちょっと変な力で拘束され過ぎて疲れてるみたい、ありがとう」
「おい、ブラッド、そろそろ行ってくれ!」
ハヤブサが声を上げる。そして、ナイトにも言葉を投げた。
「あんたはどうする、ナイト」
「私は、勇者殿について行きましょう。奴らの本拠地について説明しておきます」
騎士は穏やかに微笑んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます