勇者の仲間
ブラッドとリリーを見送り、勇者たちは魔法陣の出口へと向かった。ナイトが説明しながら移動することを提言した為、徒歩で向かう。
「人さらいの住処は疾風の国です。しかも、隠れているわけではない。町の大通りで涼しい顔をして物売りをしているようです」
「老舗だろうからな。俺がガキの頃にはもう有名だった」
ハヤブサが渋い顔をする。ナイトは頷いて続けた。
「ええ。私も立ち寄ったことのある店でしたよ。疾風の国では大きな木を住居や店にするのですが、あの店はとても立派な木でしたね」
「なんていう店だ」
「木こりの家。と言う名前の雑貨屋でした。武器や食料、なんでも揃っていました」
ナイトは言った。その名前に、勇者は覚えがあった。父の商売相手だった。かなり手広く物を売り買いしており、何度か勇者の村まで船で来た時もあった。毎回、やって来る人間が違ったが全員が愛想が良かった。
「ところで。一つ聞いても?」
ナイトは静かに言ったが、空気が変わったのが勇者に伝わった。
「どうぞ」
「貴方達の目的は魔王を倒すことですよね。何故、このようなことをしているんですか?」
ナイトは勇者の顔を見て黙った。
「友人に頼まれたんだ。俺は勇者だけど、無理矢理やらされてるに過ぎないから。それに、先輩が頑張ってくれたおかげでやれることが少ないんで」
勇者は笑った。ナイトはその顔をにこりともせずに見つめていた。
「世界が決めた目的があるのはわかるけど、俺は勇者である前に一人の人間だから。立ち止まることもあるし、お節介することだってある」
「二代目は随分と柔らかいんですね」
ナイトはそれだけ答えるともう何も聞いてすることはなかった。沈黙の中、三人は森を歩く。
まるで自分が小さくなったかのように錯覚するほど大きな木々が並び立っている。鳥の羽ばたきや、大きな葉の揺れる音が響いていた。
「じゃあ、こちらからも、一つ聞いても?」
「ええ、もちろん」
「目的はなんだ?」
勇者は立ち止まった。それにつられてハヤブサも歩みを止める。
「目的、とは?」
「そのままの意味だよ。あんたが今、俺たちの目の前にいる目的は?」
ナイトも立ち止まった。
「私は貴方ではない勇者の仲間です。彼にとって必要なことをやる。たとえ、必要とされなくなっても、彼の見えない部分を助けることができるのは私です」
ナイトは弓を構えた。明確な殺意が、勇者とハヤブサに向けられた。
「やっぱり、そうなるよな……」
「それを見越して、あの少女と野蛮女を町へ送ったのですか」
「ブラちゃんは戦える状態じゃなかったからな」
「リリーまで送ったのは何でだ」
ハヤブサの問いに勇者は苦笑いした。
「騎士道は女を手にかけないだろうと思ったから」
「あっははははははははは!!!」
笑ったのはナイトだった。紳士たる姿勢を崩し、大声で笑っている。
「失礼。そして、気遣い感謝します。ええ、そうですね。できれば、あのような可憐な少女とは戦いたくはない。貴方は面白い人だ!」
ナイトは嬉しそうに笑っている。笑っているが、彼から放たれる圧はあまりにも重く、勇者とハヤブサは笑えなかった。
「私は勇者のため、世界のため、貴方をここで殺します」
ナイトの顔から笑顔が消えた。
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