モンスターのいない世界4

 魔法陣が光り出すと、そこから子供が五人。そしてリリーが現れた。

「勇者様!」

 リリーは安堵の表情を見せる。

「リリー、動けるか、そこの怪物の動きを止めて欲しい」

「え、あ、はい! わかりました!」

 リリーは勇者の言葉に頷くと、水の魔法を使い、怪物を拘束した。水の塊に閉じ込められ、頭だけを出した怪物は唸り声を上げている。リザードは囚われていた子供達に駆け寄り声をかけている。

「モンスターを殺さないのか」

 男が不思議そうに聞いた。

「怪物にされた子供達を元に戻す方法は?」

 勇者は魔剤を突き立てたまま追求した。しかし、男は笑みを浮かべるだけだった。

「ないね。蝶を芋虫には戻せないだろう?」

 男の言葉に全員が黙った。もう彼らを助けることは叶わない。今の自分たちに何ができるだろうか。

「家族はわかるんだ。拘束してでも会わせてやるべきだ」

 リザードが言い、勇者は頷いた。

「はは、ははは! なんだそれは。優しさのつもりか? そんなことをして喜ぶ家族がどこにいる? いっそ死んでいたと教えてやる方がマシじゃないのか?」

 男は笑い転げている。勇者は自身の内に沸き起こるどす黒い感情を押し殺しながらそれを眺めていた。

「他の魔法陣は?」

「仲間を招く入り口や、材料、はは、人じゃないぞ。実験に使う材料を保管してる」

 男の言う入り口は壁に青く光る魔法陣にあり、男の魔力を込めた石を持っていないと通れないらしい。

「リリー、ブラちゃんは」

「私は子供たちと一括りにされてここへ……。ブラッドさんは他の女性達と馬車に残ったままです」

「馬車? んなもんで運んでるのかよ」

 ハヤブサが口を挟むと、男も口を開いた。

「若い女はまだ売れるからな。奴らの隠れ家へ運ばれたんだろう」

「あー」

 勇者とハヤブサは頷いた。

「じゃあ、早めに迎えに行った方がいいか」

「そうだな」

「無駄だ、オレとは違って奴らは戦いのプロだ、すぐに殺されるのがオチさ」

 男は嬉しそうに言った。勇者とハヤブサはそれを無視して入り口へ進む。

「奴らの住処は?」

「知らない」

「それなら私が!」

 リリーは杖で地面を叩いた。すると、地面に光の玉が浮き出る。

「別れる前にブラッドさんに目印を付けさせてもらいました。それに、何をしているかは見ることができます」

「ほら、うちの魔術師は優秀だ」

 勇者は笑みを浮かべると、リザードに声を掛けた。

「俺たちは仲間を追う。リザードさんはどうしますか?」

「俺は……そうだな。こいつをどうにかしてから援護に向かう」

「わかりました」

 勇者は頷き、魔法陣に飛び込んだ。

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