隻眼の魔法使い

 女王がその場から去ると、勇者はハヤブサを見た。ハヤブサは遠くを見つめて黙っていた。

「疾風の国と人さらいか」

 勇者が声を掛けると聞こえていたようでハヤブサは頷いた。

「ああ、どっちも縁がある」

「ピイちゃんが?」

「俺は疾風の国の生まれなんだ。けど、人さらいにあった。そこからどうにか逃げ出してドラゴンのいた村に拾われたんだ」

 ハヤブサが言う。ハヤブサが動物と意思疎通ができるのも、自然と共存する疾風の国由来のものかもしれない。事実、商いで出会った疾風の国の男は海を飛ぶ鳥たちを操ってみせた。

「じゃあ、ピィちゃん大活躍の予感ね」

 ブラッドが勢い良くハヤブサの背中を叩いた。ハヤブサは勢い良く飛んだ。

「ここで殺す気かよ!」

「ごめんごめん」

「大丈夫、死なない死なない。それより、女王様はどうにかしてくれとしか言わなかったな。見えるわけじゃないのか」

「長い間人さらいを続けられるくらいですから、魔力に長けている者がいるのかもしれませんね。港町は水鏡の国寄りですから、魔法使いが関わっていてもおかしくないですね……」

 リリーが唸った。その様子を見たブラッドがリリーを覗き込む。

「ねえ、リリーちゃんはどうするの? 付いてくるの?」

「えっ?」

「私たち、一緒に旅をしてくれる魔法使いを探してるんだけど」

 ブラッドが微笑むと、リリーは困ったように口をパクパクさせた。

「それはリリーちゃんが決めればいいよ。お姉さんのこともあるだろうから」

「そうね」

 ブラッドは微笑んでリリーの頭を撫でた。髪が揺れ、白い目が見えた。戦いが落ち着いた時に目は元に戻ってしまったと言う。しかし、内側に精霊を感じるようで、覚醒時に目に宿るのかもしれない。

「私たちは大歓迎だからね」

「ついていきます」

 リリーは強く頷いた。

「いいの、お姉さんに確認しなくて?」

「私のことですから、私が決めます。その方が、お姉ちゃんも喜ぶと思うから。それに、この目に宿ってくれた精霊さんの為にも、魔王を倒します」

 隻眼の魔法使いは力強く微笑んだ。


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