女王の導き
洞窟を抜けると、女王が待ち受けていた。
「戦神を解放したのですね」
笑ってはいたが、声は氷のように冷たかった。勇者に向けられたのは女王としての瞳だった。
「女王様、あ、あの、これは」
リリーが慌てて口を開くが言葉が出てこなかった。勇者はリリーの前に手を出して制した。
「契約をしました。魔王を倒し、ここへ戻ってくると。それまで危険はありません」
「勇者が帰ってくるまで戦神の手でも撫で回していたら良いんじゃない?」
ブラッドが噛み付くが、女王は反応しなかった。
「前の勇者が抜けた洞窟に向かうには精霊の加護が必要だと聞きました。その精霊として戦神様を選んだだけです」
勇者は怯むことなく主張した。すると、女王は口元を押さえて笑い出した。
「ええ、ええ。わかってます。見てましたもの。すべて。そもそもですね、あの岩は戦神の加護によってどのような魔法でも破壊できなかったのですよ。それがまさかただの小さな爆弾で……よほど気に入られたのですね」
「女王様、心臓に悪いですよ。追放されるのかと」
「そのようなことは致しません。旅の助けをしに参りました。この国を抜けた後のことです」
女王は表情を強張らせた。
「この先は疾風の国です。森に囲まれ、自然と共存しています。その途中、大きな港町がありますからそこに立ち寄ると良いでしょう。勇者様が以前の職業で何度も来ている場所です」
「ああ、あそこですね。……それで、何か問題があるのですか、表情が険しいのですが」
「あの港町は、表は煌びやかな商売繁盛の町ですが、裏は倫理を逸脱した闇の取引が行われています。どうやら、疾風の国が巻き込まれているようでして……」
女王は歯切れが悪かった。勇者は女王に近寄り、その手を取った。
「頼んでください。喜んで引き受けますから」
勇者の言葉に女王は目を開いた。そして、照れたように微笑んだ。
「これでは……私が見られているようですね。そうです、これは私個人のお願いです、おそらく魔王は関係ありません。私が小さな時から耳にする嫌な話ですから。……人が誘拐されてどこかに売られてしまうのです」
「人攫いですか」
「ええ。女王としてではなく、一人の友人としてお願いします。どうにかしてもらえますか」
「もちろんです」
勇者は頷いた。仲間たちも同様だった。
「ありがとうございます」
女王は優しく微笑んだ。
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