神との契り

「目が覚めたようですね、勇者様」

 女王の声が聞こえる。

「ここは」

「私の神殿です。どうか、そのまま、楽に」

 女王は側近に合図を出して部屋から出した。

「魔王の部下が生きていたと」

「ええ。リリーのおかげでどうにか。あの子は強いですね、頼りっぱなしでしたよ」

 勇者の言葉に女王は微笑んだ。

「ええ、ええ。あの子は立派です。前回も身を呈して皆を守り抜きました。……お力になれずすみません」

「いえ、そんな。女王様を危険に晒すわけにはいきません」

 勇者の言葉で会話が終わった。女王はそのまま黙ってしまい、沈黙が続く。いつもの笑顔は徐々に消え、暗い表情へと変わっていく。

「……戦神の加護を受けたのですね」

「はい。命までは取られませんでした」

「……ええ。それはとても喜ばしいことなのですが」

 女王は勇者の手をゆっくりと握った。

「おおよそ、半分の精霊があの洞窟から消えました」

「えっ」

「加護を施し力が弱まったのではありません。消えたのです。魔術王とやらに吸収されたものもいるでしょうが、大半は……」

「戦神様の生贄……」

「ええ」

 勇者は握られている手から血の気が引いていくのがわかった。勇者の手は人に触れられているのにも関わらず冷たくなっていき、額からは汗が滲んだ。

「女王の立場から言いますと。あれを使うべきではなかった。精霊であっても私たちの国の民です」

 女王の言葉は勇者に重くのし掛かった。目の前にいるのは一国の権力者であるということを再度知らしめる圧があった。

「女王様、どのような償いも受けましょう。あの時、自分の命を捨てて加護を受けました、今更命が惜しいとは思いません」

 勇者は握られた手を握り返した。力を込めて体温を取り戻していく。最初から中途半端な旅だった。正直、あの場で死んでも後悔などはなかった。魔王を倒すのは押し付けられた責任で、目の前の姉妹や仲間の危機こそが自分の責任だったからだ。

「私個人の立場から言いますと、気にしないで。貴方が無事に二人を連れ帰ってきてくれた、魔術王を完全に倒してくれた。それだけで私は感謝しかないしね」

 女王は砕けた口調で笑顔を見せた。

「精霊たちは自ら進んで命を捧げた。だから、自分を責めたりはしないでね。けれど、多くの命のおかげで勝ったということだけは忘れないであげて」

 女王の言葉に勇者は頷いた。

「もちろんです」

「それと、戦神のことなのだけど。貴方に会いたいと言ってたから落ち着いたら会ってもらってもいい?」

「ええ。それはもちろん……あの、女王様、敬語じゃないと雰囲気変わりますね」

 勇者が言うと、女王は「あはは」と声を出して笑った。

「色々安心して肩の荷降ろしたかったの。ごめんね、品のない女王サマで」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る