女王の笑み
「もうやめるね。はい、おしまい。もうすぐお仲間がこちらへ。勇者様の姿を見ればきっと、喜ばれることでしょう」
女王はわざとらしく微笑んだ。勇者もつられて笑う。
「あんな砕けた姿を見せられたら、無理してるように見えますよ」
「どちらも私であることに変わりません。影や光に揺らいでいても鏡に映る姿は偽物ではないでしょう?」
女王は瞳に笑みを浮かべた。勇者は手に体温が戻っていくのを感じる。彼女が違う面を見せたのは、彼女なりの誠意の示し方なのだろう。
「ありがとうございます。こんな、ろくに経験も積めない勇者を見守ってくれて」
勇者は自嘲気味に言った。仲間に助けられ、精霊に助けられ、自分は今も息をしている。どれだけ弱くても、周りは勇者としての対応を必ずしてくれる。それが情けなかった。自分は勇者の器ではないと思っていても、いざ期待されると応えたいと思ってしまう。だがしかし、応えようとしても力の無さを実感するだけだった。
「あなたが勇者だからですよ。その使命は剣と同じく、背負うことで勇者となる。そして、希望を多くの人々から貰い受けるのです」
朗らかに、しかし、はっきりとした口調で女王は続けた。
「あなたは魔王を倒すという希望を背負っているのです。そしてそれは、先代の勇者様とは少し違う形の希望」
「違う形?」
「ええ、ええ。あなたの背負う希望は少し柔らかく、あたたかいように感じます。それ故、戦神様の加護が得られたのやもしれません」
女王は勇者の頬に手を添えた。あたたかい温度が伝わってくる。
「先代は、何を背負っていたんですか」
「背負っていたのは世界中の希望。あの修羅のような眼差しは、多くの責任を背負う強い心の写しだったのかもしれません。背負い過ぎれば、人は壊れてしまいます。そうならぬよう、あの方は強さを求めたのでしょう。あくまで、私の考えですが」
「それが、ブラッドを切り捨てた理由なのか……」
勇者は呟いた。仲間を切り捨てるほどの、何かが前勇者にはのし掛かっていたのだろうか。
「皆が来ます。騒がしくなりそうですね」
女王は勇者から離れて微笑んだ。大きな足音とともに聞き覚えのある騒ぎ声が耳に入った。
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