精霊の加護
「お姉ちゃん!」
リリーはフィーに駆け寄った。勇者は動けないと目で訴えるブラッドに近寄る。
「精霊たちが傷を癒してくれたはずじゃ?」
「魔力の耐性がないから……洒落にならないダメージだったの……」
ブラッドは倒れたまま手を伸ばす。勇者は自分の指にお別れを言って手を差し出した。
「ありがとう」
意外にもブラッドの力は弱く、勇者は指とお別れせずに済んだ。彼女を引き起こすと肩を貸す。
「凄かったわ」
「戦神様がね」
「気に入られなきゃ駄目なんでしょう。ねぇ、跡になってない? 黒い炎に全身やられたんだけど」
「焦げ臭いだけだから大丈夫」
勇者が笑うと、ブラッドは肘で勇者を突いた。勇者の顔から笑顔が消えた。
「お姉ちゃんは無事か?」
勇者が姉妹に近づくと、リリーは頷いた。
「気を失ってるだけみたいです」
「ねえねえ、アレってまずくない?」
ブラッドが会話を遮った。示す先にはバラバラになった魔術王が見える。その破片からは黒い稲妻がバチバチと音を立てて走っていた。
(生体反応はないから、残った魔力だけが溢れてきてるみたい!)
どこかの精霊が声を上げた。
「それってつまり、爆発しますよ的な」
勇者は顔を歪ませる。冒険らしさは出てきたが、今じゃない。決して今ではない。
「逃げよう」
勇者の言葉に全員が頷いた瞬間、元魔術王が爆発した。衝撃で入口は塞がり、地面に空いた穴からは水が噴き出した。
「さっきの水残ってんのかよ!」
勇者は舌打ちを鳴らす。水位はすでに膝の高さだった。
「リリー、こう、空気の空間を作って避難できないか? 魔術王がやってたんだ」
「やってみます!」
リリーは杖を構えて、空気の渦を作り出した。が、すぐに消えてしまう。
「ごめんなさい、魔力が残ってません!」
「精霊ぇ!」
「さっきの魔術王の魔力に怯えて皆、離れてしまったみたいです!」
リリーは涙声で叫んだ。水位が上がったので勇者はフィーの肩を持つ。体格的にリリーに人を担がせるのは不可能だった。
「待ってください、何か見えます!」
リリーは右目を光らせ水の吹き出す穴を指差した。水の中から勇者の倍ほどの大きな亀が現れる。
「敵?」
ブラッドが顔をしかめた。大きな亀が三匹現れ、勇者の前に泳いできた。そして三匹揃って背を向けている。
「助けてくれるのか」
勇者が問いかけたが、亀は答えなかった。
「リリー、ブラちゃんは頑張って一人でしがみついて」
勇者はそう言って、フィーを抱えながら亀にしがみついた。亀は勇者を確認すると穴に向かって泳ぎ出す。
「精霊の加護かな」
勇者は呟き、大きく息を吸った。こちらのタイミングも図らずに、亀は水に飛び込んだ。
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