試練開始
勇者は諦めてリリーと二人で洞窟に入ることに決めた。
「行こう」
「リリー!」
声のした方を見ると、フィーが見送りに現れた。
「お姉ちゃん、行ってくるね」
「頑張ってね! 勇者様、どうか妹をお願いします!」
「安心してほしい。多分、世話になるのは俺の方だから」
そう笑って勇者はフィーに頷くと、洞窟の中に入って行った。
「思ったより暗いな、ランタンか何か……」
勇者が言うよりも早く、リリーは光の球を出現させた。
「あ、足元に気をつけてくださいね」
「ありがとう」
勇者は少し明るくなった通路を見て考えていた。今までは前勇者の献身的な破壊活動のおかげでモンスターの気配を全くといって感じたことがなかった。しかし、ここは違う。目には見えないが、視線や気配、外とは違う空気が立ち込めていた。
「来ます」
リリーは杖を出現させ構えた。勇者も前方を睨みつける。すると、視線の先から火の玉が飛んで来た。二人はそれをひらりとかわした。
「ここは任せてください」
リリーはそう言って呪文を唱え始める。杖が光り、大きな水の球を発射した。その威力は隣にいた勇者が半歩仰け反る程だった。奥から水が蒸発するような音が聞こえる。
「追い払えました」
「ありがとう」
勇者の言葉に少し照れたように笑うと、リリーは歩き出した。彼女を見て勇者は確信した。
「俺、いらないよね?」
「そ、そんなことはありません!」
リリーは慌てて勇者に振り向いた。何か言葉を探しているようだった。
「単純な戦闘なら、精霊相手ですから私が有利です。でも、試練は戦闘が全てではありません」
「どういうことかな?」
「精霊から加護を受けるには精霊による試練を乗り越えないといけません。それは精霊によって全く異なる試練になります」
「簡単な力試しだといいな」
少し歩くと、大きな空間に出た。すると、光の球が勇者に近付いてくる。光は女とも男とも言えない声で話しかけて来た。
「お久しぶりです。私の声がわかりますよね?」
「いや、ちょっと」
勇者は小首を傾げる。
「あなたが女戦士の投石によって生死の境に……」
「ああー……ああ、えっと。あの?」
「私はあなたを案内するために姿を見せました」
光の球はゆらゆらと飛んでいる。
「この国に来る洞窟で話したことがあるんだ」
勇者は不思議そうに光を見つめるリリーに説明した。
「そうだったんですね」
「付いて来てください」
光は洞窟の先へと進んで行く。
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