魔法使い
勇者は女王に礼を言い、水晶の建物を出た。すると、そこへ半魚人が駆け寄って来た。
「挨拶は終わったのかな! 次はどちらへ!」
「試練の洞窟はどこにあるかな」
「試練の洞窟? 直ぐにご案内できるけれど、魔法の扱いに長けてる方は?」
半魚人は三人に手をかざしながら言った。
「むむむ。アタシは多くの旅人を案内して来たので人の魔力を見ることに長けているの。代表の方が少しあるだけね。これでは少し不安」
「何があるんだ?」
ハヤブサがたずねると、半魚人はうーんと唸った。
「精霊たちと戦うことになった場合、一番の有効打は魔法だからね」
「なあ、勇者、やっぱり魔法使いを仲間にしよう」
ハヤブサの珍しい正論に勇者は唸った。
「そう、だな」
「ねえねえ、魔法使いをお探し?」
半魚人が目を輝かせた。対照的に勇者の目が死んだ魚のように光を失った。
「ねえ、どうしてあの子に当たりが強いのかしら」
「無理やり案内とか押し付けてくる奴が苦手なんだよ、勇者は」
ハヤブサは得意げに言った。勇者はお前も洞窟まで案内してきただろ。という言葉を飲み込んでため息を吐いた。やり取りを見ていた半魚人が否定するように手の平を振った。
「ああ! アタシに目をつけるとはお目が高い! ですが、アタシではないの! ついてきて!」
半魚人はそう言って水の中に飛び込んだ。勇者は黙って空を眺めていた。
「こんな隙間からだと、青い空が見えたら綺麗なんだろうな。早くあの雲を消し去ってやらないとな」
「どうして今日の勇者はこんなに機嫌が悪いんだ」
ハヤブサが頭を掻いた。
「こう、上を見上げるとな。後頭部が激しく痛むんだ」
「もう許した流れじゃなかったのそれ!」
ブラッドはごめんなさいと勇者の頭を撫でた。勇者は痛ッと叫んでブラッドを振り払う。そこへ、半魚人が戻ってきた。
「あの、ついてきてって……」
「どうやって?」
「あ、そうですよね、歩きます、すみません、なんか……」
半魚人は哀しそうな表情を全面に出しながら陸へ上がった。
「前の勇者さんは、飛び込んでくれたの……」
「なんか陰鬱としてきたな! 明るく行こうぜ!」
ハヤブサが手を叩いて大声を出した。勇者は黙ってそれを見て顔を伏せた。まるで興奮した猿のようだったので笑いそうになってしまったからだ。
「案内するよ!」
半魚人は笑顔で歩き出した。
「私が言うのもあれだけど、頭打ってどうかしちゃった?」
「それは本当にブラちゃんが言うことじゃないな。疲れてるだけだよ」
勇者は自分でも把握できていない疲労感にうんざりしつつ、半魚人の案内についていった。
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