精霊の洞窟
暗いはずの洞窟は、艶かしく光っていた。青白く光る岩肌は結晶のようだ。
しかし、その灯りは旅人を照らし出すものではない。侵入者を照らし出すためのものだった。耳を澄ませば、精霊の声が近付いてくるだろう。澄み切った水を濁した害獣を取り除くために。
「明るくて進みやすいな、この洞窟は」
勇者は言う。しかし、足取りは重かった。
「ハヤブサ、明るいだろ、大丈夫だって」
ハヤブサは勇者の右腕にしがみついていた。前に進み辛くて仕方がなかった。
「狭いんだよ……あ、あ、明るくてもな、息がこう……」
ハヤブサは餌を与えられた魚のように口をパクパクしていた。
「前みたいに走って行けば?」
「中の構造もわからないのに走れるわけないだろ!」
ハヤブサの顔が青白いが、それはきっと洞窟の明かりのせいだろう。勇者はそう頭で納得して会話を終わらせた。
「それで、ブラちゃん、どうした?」
ブラッドは勇者の左腕に抱きついていた。前に進みにくかった。
「ほほ、ほら、私、魔力がこれっぽっちもないから、こ、ゴースト系はね」
ブラッドは腕に力を込める。勇者は呻いた。
「ブラちゃんやめて。それ以上やったらこの旅終わるから」
勇者は溜息を吐いた。両脇を固められてしまった。もはやできることといえば、念仏を唱えることだけだ。前の勇者が聖水を撒き散らし精霊達を殲滅したことを願うしかなかった。
カラカラッ。
洞窟の壁が小さく崩れる。
「アアアアアア!」
ブラッドが今まで聞いたこともない女の声を上げた。そして勇者の腕を持ったまましゃがみ込む。そして、その声に驚いたハヤブサが、勇者の腕を持ったまま大きく飛び上がる。
勇者の体は上下に引っ張られ、悲鳴をあげた。
「離せ! 離せ! 置いていく!」
活動限界を越えた関節を抑えながら勇者が吠えた。振り払おうとするも、二人は全く動かなかった。
「あっ、俺の体に幽霊が!」
勇者が叫ぶと、両脇が叫び声を上げて飛び退いた。その隙に勇者は全力で走り抜ける。
「待って!」
ブラッドの悲痛な声を背中に感じる。しかし、勇者は悲痛な音を上げた自分の関節を優先した。どうせモンスターも出てこない洞窟だ。時間がかかろうが、各自で頑張って貰えばいい。それがみんなの為だ。
「っ!」
突如、勇者の後頭部に強い衝撃が走った。勇者は視界が真っ白になり、そのまま前に倒れこむ。
途切れそうな意識を持続させながら辺りを見回すと、手のひら程の大きさの石に血が付いていた。
「待ってって言ったじゃない」
どこからか聞こえるブラッドの声を聞きながら、勇者の意識は旅に出た。
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