盗賊の誇り

「だからまあ」

 言いかけたブラッドは黙った。と、同時に、三人の足元に矢が飛んできた。

「なんだ!」

 ハヤブサが武器を構える。勇者は矢の射られた先を見た。そこにいたは岩陰に隠れた盗賊らしき姿だった。

「殺人鬼が! またお前を見ることになろうとは!」

 盗賊はブラッドに向かって弓を引いた。ブラッドは盗賊に向かって走り出した。

「他にもいないか?」

「待ってろ」

 ハヤブサは上空を飛ぶ鳥を呼び、索敵を始めた。

「ブラッド、どうする気だ」

 勇者が声をかけた時にはすでに、ブラッドのしなやかな回し蹴りが盗賊の顔に直撃していた。盗賊は倒れこむ。

「崖の上に数人いるな、五人いる」

 ハヤブサは言った。

「やり損ねがいただなんてね」

 ブラッドはふふふと微笑んだ。倒れた盗賊は気を失ったようで、ピクリとも動かない。ブラッドは人形と化した盗賊を片手で持ち上げると声を響かせた。

「この勇気ある弓兵の首をへし折られたくなければ、大人しく出てきなさい」

「なあ、勇者、俺たちが悪い奴らだっけ」

「立場を見失いそう」

「ピィちゃんどう? 動きはある?」

 持ち上げられた盗賊が、ブラッドの無慈悲な握力によってメリメリと不思議な音を立てている。

「いいや、まったく動かない」

「ねぇ、まさか。彼が隠し持ってる爆弾が爆発するの待ってるの? 悪いけど、魔法じゃなきゃわかるから」

 ブラッドは盗賊の懐からかんしゃく玉のようなものを取り出すと崖の上に投げた。直後、爆発と断末魔が聞こえた。

「盗賊だもんな、悪い奴らだよな、そうだよな、勇者」

「そう信じよう」

 煙の上がる崖の上から、一つの影がこちらに飛んできた。見ると、先ほどの盗賊と同じ姿をしている。

「俺たちは確かに薄汚い盗賊風情に過ぎない! だがな、俺たちにだって誇りがあるんだよ! 仲間のほとんどを殺された俺たちが、何もしないで怯えるだけだと思うなよ!」

 盗賊はそう叫ぶと、弓も構えずに何十本もの矢を同時に放った。水平に並ぶ矢は三人に襲い掛かる。

 勇者は魔法陣から盾を取り出すと、ハヤブサの前に立ち、矢を防いだ。一本一本の威力が強く、大きく後ろに飛ばされてしまう。倒れながらブラッドを探すと、彼女は空中へ逃げていた。

「どこへ逃げて無駄だ! 俺の誇りにかけてお前を!」

 盗賊は空に向かって矢を放つ。ブラッドは体を捻って躱すと、手に持っていた先の盗賊を投げた。

 見事、物言わぬ盗賊と盗賊はぶつかり、物言わぬ盗賊が二人に増えた。

「最初に貴方が奇襲を仕掛ければ話は変わったかもしれないのにね」

 ブラッドはニコリともせずに言った。

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