闘技場

 少し歩くと、ハヤブサが目を覚ます。勇者が水を飲ませると泣いて喜んでいた。

「死んだと思った」

「俺も」

「私も」

 ハヤブサは言い返すのを諦めた。ブラッドが大きな建物を指差す。

「闘技場に行きましょう。あなたたちの強さも知りたいし」

「闘技場か……」

 勇者はブラッドの指の先を目で追った。そこには見てわかるほどの大きな建物があった。外壁の柱には大きな松明が取りつけられ、多くの人々が出入りしている。

「ささ、行きましょ行きましょう!」

 ブラッドは興奮気味に二人の背中を押して歩き出した。

「嬉しそうだな」

「今じゃ何もできやしない私が、懐かしい場所に帰って来れたのよ。嬉しいわ」


 闘技場に到着すると、数人の男がこちらに駆け寄ってきた。

「ブラッドさん!?」

「久しぶり。ちょっと色々あったの。顔出しに来たわ」

「勇者様の消息が……」

「ええ。私も探してるところよ。けどその前に、この二人と参加しようと思って」

 ブラッドは勇者とハヤブサの肩を抱いた。

「そちらは?」

「二代目勇者様たちよ。私も出るわ。すぐにエントリーを」

 ブラッドが伝えると、男たちはその場で歓声をあげた。そして、受付に走り出す。

「次の試合は中止だ! ブラッドさんの試合を組めるぞ!」

 男が声を荒げた。すると、会場にいた人々が騒ぎ始めた。

「すごい人気だな」

 勇者は肩に回された手を払いながら言った。それが気に食わなかったらしいブラッドは、ハヤブサを解放し、両手で勇者に後ろから抱きついた。勇者は小さく舌打ちする。

「馬鹿みたいにくっつかないでもらえるかな」

「お互いの強さも知らずに旅をするのは危険だと思うの。ねぇ?」

「わかったわかった。言っておくけど、多分ブラちゃんが一番強い」

 勇者が言うと、ブラッドはふふふと笑った。

「力だけが強さじゃないわ。頭が切れたり、素早かったり、そういうのも立派な強さよ」

 ブラッドは勇者を解放する。そこへ、先ほどの男が一人戻ってくる。

「すぐに準備ができます! それぞれの控え室へ! ちなみにすぐに動けるモンスターはランクAのサイクロプスですね、かなり手強いですよ」

 男の言葉に反応したのは勇者だった。

「モンスター? ここにはモンスターがいるのか?」

「そうよ。この闘技場では殺しは御法度。だから、モンスターだっているわ」

「ですが、外から新しいモンスターをスカウトできなくなってしまいました。スカウトしようにもモンスターが見当たらないので……。おかげで今いるモンスターたちは強くなってしまい、初心者を受け付けられなくない状態です」

 男が言う。ここにもモンスター激減の被害に遭っている者たちがいる。武器屋と違い、ここではモンスターがいないというのは死活問題だろう。

「つまり俺たちはめちゃくちゃ強ぇモンスターと戦わされるってわけか」

 ハヤブサが息を呑んだ。

「大丈夫でしょう? だってあなたたち、勇者御一行様なんだから。先に控え室に行って準備するわ」

 ブラッドは「お手並み拝見ね」と微笑んで歩いて行った。

「男性の控え室はこちらです」

 二人は男に連れられ控え室に向かった。

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