砂の都
勇者は今回も、何事もなく砂塵の国に到着した。盗賊が出ると噂の谷も、ブラッドの威圧感のせいで素通りであった。
砂塵の国の町は、緑こそないものの人々の活気で賑わっていた。建物は石を使ったものが多い。町に入り動かずにいると、気の良さそうな男が近寄ってくる。
「ようこそ、砂の都へ! ここは砂塵の国でもっとも大きな町なんだ。ここには大きな闘技場もあるんだ。もしよかったら案内しようか?」
勇者は気の良い男に好感を持ち、案内を頼もうとした。
「大丈夫よ」
しかし、ブラッドが軽くあしらい気の良い男は消えてしまう。勇者は思わず冷ややかな視線をブラッドに向ける。
「私がいるから大丈夫」
「まあ、そうだろうけどさ。俺たちのせめてもの冒険らしさを奪うなんて」
勇者はため息をついた。村から村へただ歩き、仲間は増えど、モンスターは増えず。そんな伝記を見つけたらまず読まないだろう。せめて、旅行記くらいにはしたい。
「私が案内してあげるわ」
ブラッドは胸を張り、鼻を鳴らした。
「ハヤブサが追い付いたら頼む」
勇者は入口を見ながら言った。
ハヤブサは砂嵐にさらわれてしまった。勇者とブラッドは、途中から砂の礫に苦しむハヤブサの姿を確認するのを怠ってしまい、町の入口に着いた時は二人だった。環境を舐めた装備で旅をすることの無謀さを体現したのであった。
しばらくすると、大道芸をする旅の団体が町に入ってきた。何頭もの馬(しっかりとした装備で身を包んだ姿)と数台の馬車で、大所帯だった。
「おや! あなた方も旅を? 私たちは世界中でサーカスをしているんです!」
団体の一人の、若い男が勇者に声をかけてきた。勇者は商いの旅で見た芸人たちを思い出していた。
「凄い数ですね。あの砂嵐の中、はぐれたりはしませんでしたか?」
「ええ。どうにか! でもね、さすがの砂嵐だ、急に馬達が道を外れ出したりして大変だったんです。笛のような音も聞こえるし。てっきり私たちは、山賊でも出たのかと思ってヒヤヒヤしました」
男は大袈裟に頭を掻きながら笑っていた。それを聞いたブラッドは馬に近づいていく。
「それはご迷惑をおかけしました……」
勇者が頭を下げると、男は慌てた。
「ええっ? どうしてあなたが!」
「その笛を吹いたのは俺の仲間だと思います」
「いたわ!」
ブラッドが声を上げる。そこには、馬にしがみついた砂まみれのハヤブサが目を血走らせていた。
「……動物が近くにいて助かった……お前らは後で殺す……」
ハヤブサは捨て台詞を吐き、馬から落ちた。流石に哀れと思ったか、ブラッドはハヤブサを両手で受け止めると、抱えてこちらに歩いてきた。
「大丈夫ですか! その人は!」
若い男だけではなく、他のものも駆け寄ってきた。勇者は自分の馬にしがみついていた不審者を心配してくれるサーカス団に心で感謝した。
「ご迷惑をおかけしました。お詫びと言っては失礼になってしまいますが、いつか見に行きます」
勇者は深く頭を下げると、ざわめく団体を残して町の奥へと向かう。
「ブラちゃん。案内してくれよ」
勇者が言うと、ブラッドはハヤブサを片手で肩に乗せ抱え、指をさし始めた。
「あそこが宿屋、あっちが武器屋で、あっちが城、あっちが酒場であっちが私ん家、あれが貸し馬小屋であれが……」
「それは案内とは言わない」
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