進化

「私達!人間を卒業します!」


 ある地下アイドルグループはライブのステージ上でそう宣言すると身体から不思議な光を発光させて新しい未知の生命体アイドリアンに進化した。それを目の当たりにしたファンの多くは恐れおののき、逃げるようにライブハウスから我先にと逃げ出していく。

 しかし訓練されたごく一部の熱狂的なヲタはその場にとどまり、異形の姿に変わったそのアイドルの応援を続けるのだった。


「俺らは推しが人間やめてもファンを辞めやしないぜー!」

「うおおおおー!」

「むしろ、人間じゃないのがいいー!」

「ブヒィ!ブヒィィィ!!」

「ふんもおお!ふんもおおお!」


 ヲタの熱気もまた臨界点を超え、それは人の形を維持する限界を軽く超えていく。

 そう、この瞬間、ヲタもまた人ではない生き物、ヲタリアンに進化していたのだ!


 その後もアイドリアンとヲタリアンは演者と観客の関係のままお互いにテンションを上げ続ける。その熱狂はやがてライブハウス全体を素敵な光で包み込み――臨界点を超えた瞬間、ライブハウスごと綺麗さっぱり消えてしまった。


 それ以降、彼らの姿を見たものは誰ひとりいないと言う……。

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