第144話「ザリガニ釣り」

僕の小学時代の話だ。

小学校4年の時。従兄弟達が、埼玉の中ほどに住んでいたので、良く遊びに行った。

埼玉の排水構は大きく、フタがされていなかった。だから、中に降りて遊んだものだ。従兄弟は、当時、スイミングを習っていたから、その間は、僕は勝手にその辺で遊んでいた。


従兄弟は、団地に住んでいて、団地の周りは、田んぼだらけだった。排水構は、田んぼにもつながっていて、あふれた水を流していた。排水構で、何やらしている人影があった。見ていると、向こうも気付いて……


「ザリガニとってんだよ。やってみるか?」


と、同い年ぐらいの男の子に誘われた。

男の子は、タコ糸にスルメが結んであるのをくれた。


「これで釣るんだよ!」


男の子は、持っていた自分のタコ糸を垂らして、排水構のザリガニの頭にスルメを近付けた。排水構には、5、6匹はザリガニがいただろうか。男の子は上手く釣り上げ……


「ほら、こうやって釣るんだよ!」


と、言って捕まえたザリガニを持って来て、透明プラスチック製の飼育箱に入れたのだった。

僕もマネて釣ってみた。排水構には流れがあって、意外とザリガニの頭近くにスルメを寄せる事が出来なかった。


「こうやんだよ」


と、見かねて男の子は、流れに乗せつつ、誘導する方法を教えてくれた。


「あっ!釣れた」


僕は、ザリガニを釣った。お店で買ったのではない、生まれて初めてのザリガニ釣りだ!!


「釣れたよ!」


と、言って男の子を呼ぶと……


「早く引き揚げないと!」


と、言われたのも、束の間、ザリガニはスルメを離し……


チャポン!


と、排水溝の中に落ちてしまったのだった。


「今度は、ザリガニがスルメを挟んだら、直ぐに引き揚げなよ!とにかく排水溝から出して、道路の上に出したら、後は捕まえるだけなんだからさあ」


と、男の子に言われた。

僕は、またスルメのついたタコ糸を垂らした。しばらく待つと、タコ糸を持つ手に振動が伝わった。僕は、急いでタコ糸を引き揚げた。排水溝は、高さ1メートル以上はあったので、慣れないと、たぐりよせるのも大変だった。とにかく、排水溝からザリガニを引き揚げ道路に出した!


道路に出たザリガニは、怒って両手のハサミを高く上げて威嚇していた。僕は、ザリガニの後ろから手をかけて、背中からつかんで捕まえた!!


「やったね!」


と、男の子からエールが聞こえた。

その時……


「お兄ちゃ~ん!」


と、女の子が走って来た。どうやら男の子の妹だった。


「お兄ちゃん、夕ご飯だって」


「そっかあ、もうそんな時間かあ!」


男の子は帰り支度をした。

僕は、飼育箱を持ってなかったから……


「これあげる!」


と、言って僕は自分のザリガニをあげた。


「ありがと!」


「じゃね」


「ああ、じゃあバイバイ!」


と、言って男の子と妹は帰っていった。その男の子とは、その時だけの遊び友達だった。

今から数十年前の、夏の暑い日の話しだ。


おしまい

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