第145話「永遠の終わり、8月31日」

夏休みに入った時には、この夏休みが終わるなど、遥か地平線の彼方の出来事で、想像すら出来なかった。

しかしとうとう、その日が来てしまった!夏休み、最後の日。8月31日が……


『なんで、早くにやっておかなかったのだろう……』


毎年の事ながら思ってしまう。全くやってない訳ではないが、各教科事のドリル、自由研究、読書感想文などなど、机の上には山のように宿題が、うずたかく積まれていた。壁に貼っておいた、夏休みの行動表がうらめしい。


31日は、朝から大忙しだった。6時に起床し、今日一日で、40日分の宿題を終わらせる算段をつけなければならない。僕の頭は、超高速で回転した!!


まず、9月1日に必要なのは、通知表と宿題各種だが、すべてが一度に集められる事はない。特に、自由研究(工作など)は、あとの提出なので、後居まわしだ!(まあ、工作は得意なので、どうにでもなる自信があった)当面の問題は、ドリルをどうするかだ!


計算ドリルは、計算機で出来るし、いざとなったら爺ちゃんと親父に答えだけ、別の紙に書いてもらったのを書き写せるから、これも後回しにした。

漢字書き取りドリルは、自分でするしかないから、最優先だ!


社会と理科は、社会知識と科学的経験から親父に!と、いうことは、計算は、爺ちゃんに専任してもらおう!!

と、頭の中で算段をつけていた。


さあ、まだまだ問題はある……読書感想文はどうしよう!?もう1冊丸々、読んでいるヒマはないぞ!!こうなったら、奥の手だ!

家にある、だいたい内容の分かる本を探しだした。そして背表紙などに書いてある、あらすじを読む!作品の最後の章を開き、「つまり~」や「だから~」と書いてある所を探しだし、メモ紙に書き出した。ここに、作者の伝えたい事が書いてあるからだ!それを元に、その結論につながるよう、適当な感想文を作ったのだ!こんな感じだった……


「ムササビのおやこを読んで思ったのは、“つまり、親ムササビは、子どものために献身的に行動するのだ”という言葉にあるように、その姿を想像すると、僕は親ムササビは凄いなあと思った!」


何が凄いと思ったのか、自分でも分からないが、感想だからいいのだ!思った事を書けば。これで、読書感想文は終わった。


おっと、思いだしちゃったよ!観察記録があったんだあ。アサガオ、ヒマワリ、ヘチマだのと、絵と気温や天気を書かなければならないのだ。僕はすぐさま、教科書や資料集を開いた。絵は、本を見れば描けてしまうが、天気と気温はどうしよう……そうだ、図書館だ!!僕は、すぐに図書館に行き、過去の新聞から天気と気温をチェックした。


お日様は、物凄い早さで進んでいく。気付けば、もう夕方になってしまった。爺ちゃんや親父が、仕事から帰って来た。とにかくとにかく頭を下げて、宿題の手助けを頼んだ。2人に……


「えー!まだやってなかったの?」


とか……


「また、今年もかあ!!もうやだよ~」


と、散々お小言を言われたが、なんとか手助けしてもらえる事になった。


取りあえず、当面の宿題の足並みはそろった。僕は眠い目をこすりながら、それらをランドセルに突っ込んだ。時計は、深夜12時を過ぎた所。もう9月1日になってしまった。


こうして僕の夏休みは毎年、慌ただしく終わっていったのだった。


おしまい


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